ファム・ティ・バウさん(女性・52歳)は今から22年前、商売に行く途中で見知らぬ女性に催眠をかけられ、そのまま中国に売られて若い中国人男性の妻となった。幸いにも買い手の男性はバウさんを心から愛してくれたが、それでも22年が経ってようやく故郷に戻ることができた。
(C) vnexpress, Tien Hung, バウさん(右)と夫のヤンさん(左) |
(C) vnexpress, Tien Hung, バウさん(左)と母親のグーさん(右) |
4月末のとある日、南中部沿岸地方クアンナム省ヒエップドゥック郡タンアン町にあるレ・ティ・グーさん(女性・86歳)の小さな家には、にぎやかな笑い声が響いていた。行方不明になっていたグーさんの娘であるバウさんが22年ぶりに帰ってくるとの知らせを聞いて、近所に住む人たちや親しい人たちが集まって喜び合っていたのだ。
1994年の4月中旬、バウさんは北中部トゥアティエン・フエ省に果物を売りに行き、自宅のあるクアンナム省へ向かう車に乗って帰ろうとしていた。フエとクアンナムの間に位置するハイバン峠に差し掛かった時に車が故障し、乗客は皆車を降りなければならなくなった。
「その時はちょうど15時頃で、私は他の多くの乗客と一緒に道端に座って水を飲んでいました。すると突然、近付いて来た女性に肩を叩かれて、私は頭が真っ白になりました。魂を抜かれたような状態で、抵抗もせずにその女性に着いて行き、北に向かう車に乗り込みました」とバウさん。
道中どこに立ち寄ったのかは覚えていないが、意識が戻った時には中国の広西省にいたという。「目覚めた時、1人の女性から『あなたは中国に売られた。もしベトナムに帰りたいのなら2000人民元を支払わなければいけない。もし払えないのならここに留まり買い手が来るのを待つしかない』と言われました」とバウさんは回想した。
その時、バウさんと同様に監禁されたベトナム人女性が10人近くいた。お金もなく頼れる人もいない中で、バウさんと他の女性たちは中国人男性が買いに来るのをただ座って待っているしかなかった。バウさんには当時、夫と2人の息子がいた。
「たくさんの男性グループが私たちを見に来て、女性を選んでから女主人に支払いをしていました。私たちは商品の様に売られたのです。皆とても恐怖を感じていましたが、そこから逃げる術もなく、どうすることもできませんでした。誰も中国語を話せなかったし、道もわかりませんでした」。