(C) Xuan Vinh, Tuoi Tre 写真の拡大 |
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ホーチミン市ホックモン郡ドンタイン村タンドン集落にある小さな下宿に住むチャン・フイン・スアンさんは、80歳と高齢ながら現役で英語の家庭教師をしている。さらに、ピアノの弾き語りを目指して日々練習中だというから驚きだ。
スアンさんは旧サイゴンのレタントン通り(Le Thanh Ton)の裕福な家庭に生まれたが、幼くして母を亡くした。父は再婚したが継母はスアンさんのことを拒絶し、辛い生活だった。その頃の唯一の楽しみは、当時有名だった歌手たちの公演を観に行くことで、毎晩のように行くほど音楽に魅了されたという。
マリーキュリー(Marie Curie)高校を卒業後はサイゴン文科大学に進学、後に親が決めた相手と結婚したが、夫はスアンさんに暴力を振るう人だった。夫との間に4人の子供をもうけたスアンさんだったが、最後は暴力に耐えかねたスアンさんが子供を連れて家を出た。その後、女手一つで苦労して育てた子供たちはみな結婚し、家族と暮らすようになった。
不運は去ったように見えたが1997年にスアンさんは事業に失敗し破産、さらに次男が自ら命を絶ってしまった。残された3人の子供の負担になるまいとスアンさんは1人あちらこちらの下宿を渡り歩いて暮らし、あまりに困窮した時にはお寺の世話になった。
しかし、数年が経つと、身元保証人になる身寄りもない高齢のスアンさんは長期で下宿を借りることさえ困難になった。現在では、地域の子供に英語を教えてなんとか生計を立てている。
そんなある日、仕事に向かう途中でピアノ教室の看板が目に入り、幼い頃に抱いた音楽への想いが蘇った。悩んだ末にスアンさんはピアノ教室のドアを叩いた。先生は授業がない時に週に数回、市内の音楽センターや生徒の自宅に赴きアルバイトでピアノを教えるホーチミン市音楽院ピアノ科2年の女子大生だ。