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U15の選手たちの多くは、地方からハノイへ来たばかりの中学生の少女たちだ。皆が恵まれた家庭の出身ではない。女子サッカーはこれから、のこの国で、彼女たちはどんな思いでここに来たのだろう。数年前まで、国旗を背負いサッカーで生きていくことなど、想像さえしていなかった彼女たちの心の中は、代表候補に選ばれた喜びや誇りより、不安でいっぱいなのではないだろうか。女子にとってサッカーとは何なのか、将来プロになれるのか、ダメだったらどうなるのか。まだ子供らしい面影の残る選手たちは、家族や友達と遠く離れ、そうした様々な思いを胸に抱きながら、懸命にボールを追っている。
井尻監督は、一流アスリート独特の強いオーラがありながら、とても明るく温かい。指導にも、集中した緊張感の中に愛情があふれていた。
練習が始まると、大きな声を出して、選手たち一人一人に近寄り、細かな体の動きなど、自らどんどん動いて見本を見せる。選手が失敗すると、「何――今のはーーー!」と大きなジェスチャーで残念がり、教えたことをうまくできた選手には、「ナイス、ナイス!すごいぞーー!」と、大きな笑顔で褒める。
おそらくこれまで人前であまり感情を表現してこなかった選手たちも、思わず笑ったり、悔しそうな表情を見せて再びボールに向かって行く。“サッカーは楽しい”“うまくなりたい”という純粋な思いが、ピッチから伝わってくる。
“代表選手”というユニフォームの下にある少女たちの心細さや不安な思いを、井尻監督は、人として、温かく受け止めているように見えた。だからこそ、まずはサッカーを好きになってもらう。そこから一人一人の“あきらめの壁”を越えさせようとしている。
“君たちは、もっとできる”と、心の声を枯らしながら、井尻監督自身も一人、全力で、闘っている。
【Text & Photo by Miwa ARAI(ライター)】