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この数十年でホイアン市は大きく変化したが、ティエウさんから子供たちに受け継がれた黒胡麻チェーの鍋の火が消えた日はない。通りに静かに立ち込める湯気は、初代と変わらない香りだ。
ティさんによると、幼い頃はよくホイアン市のあちこちに黒胡麻チェーを売りに行く父親について行っていたという。簡素な移動販売による稼ぎで父親は3人の子供を育て上げた。その後、ティエウさんが歳を取ってからはグエンチュオント通りの決まった場所に露店を構え、座って販売する今のスタイルになった。
子供の頃にティエウさんの黒胡麻チェーを食べていた人たちは、今は娘のティさんが売る黒胡麻チェーを食べている。彼らは幼い頃、ティエウさんの温かい黒胡麻チェーを食べるため、ティエウさんの売り声が聞こえてくるのを毎朝わくわくしながら待っていた。大人になった今でもその習慣は変わらず、仕事や買い物に行く前には黒胡麻チェーを食べている。
黒胡麻チェーの露店は、ホイアン市にしかない名物となっている。カオラウやミークアンのような他の名物料理は全国各地で目にすることができるようになったが、ティエウさんの黒胡麻チェーだけはホイアン市でしか味わうことはできない。珍しくもあり親しみやすくもあるというだけでなく、天秤棒と簡素な椅子に、古き時代の商い文化の美しいイメージが残る場所でもあるのだ。
2019年にホイアン市人民委員会はティエウさんの家と黒胡麻チェーの露店を文化観光スポットに認定した。黒胡麻チェーは「遺産」としての名物料理であるだけでなく、生計を立てるための露店が観光地に変わったホイアン市旧市街で唯一の場所でもあり、同市を訪れる多くの観光客を惹きつけている。