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ティエウさんは黒胡麻チェーの作り方を自分の子供たちだけにしか伝授しておらず、他には誰もその作り方を知らない。黒胡麻チェーの材料を揃えるのは難しくはないが、家族が使っている鍋なくして秘伝の黒胡麻チェーを作ることはできない。
ティさんが明かした他に代替不可能な2つの材料は、ズイスエン郡で採れる黒胡麻と、ホイアン市にある、かつて南中部沿岸地方で栄えたチャンパ王国時代から存在するというバーレー井戸から汲んでくる水だ。ティエウさんが過去60~70年間にわたり作ってきた黒胡麻チェーは、この井戸水によってより甘みを増している。
「私たちきょうだいは密かに両親の仕事を盗み見て学び、両親が年老いたら自分たちが仕事を継ごうと考えていました。2015年に両親が休みがちになると、私たち3人は普段の仕事を調整しながら交代でチェーを作り、露店で売るようになりました。生計を立てるためではなく、親孝行のためです。両親に喜んでもらい、後継者がいることで2人に安心してもらいたいんです」とティさんは語る。
黒胡麻チェーは、ホイアン市がかつて商港都市として栄えた時期に入ってきたものだ。中国由来だが、ティエウさんが店を始めたことによって徐々にホイアン市の名物料理となっていった。
17世紀から19世紀にかけてのホイアン市は外国との文化交流が盛んで、飲食文化の交流も行われていた。特に、中国、日本、そしていくつかの西洋の国との交流が活発だった。
当時、ティエウさんは旧市街で飲食店を経営する中国人一家の店で働いていた。ティエウさんが雇い主から学んだメニューの中に黒胡麻チェーがあった。中国人一家がホイアン市を離れる際、ティエウさんはノウハウや技術を受け継ぎ、毎日作り続けることで熱々の黒胡麻チェーで生計が立てられるようになっていった。