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[特集]

ホイアン名物の黒胡麻チェー、107歳の店主が子供に引き継ぐ「遺産」

2022/04/03 10:31 JST更新

(C) dantri
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 南中部沿岸地方クアンナム省ホイアン市グエンチュオント(Nguyen Truong To)通りの一角に、ゴ・ティエウさん(男性・107歳)が続けてきた黒胡麻チェーの露店が静かに店を構えている。これは、2019年にホイアン旧市街の「遺産」に認定された。

 1世紀近くもの長きにわたり、ティエウさんの作る黒胡麻チェーはホイアン市に住む人々にとって子供時代に親しんだ思い出の食べ物であり、世代を越えて愛されている。

 ここ10年ほどは、体調が悪い時には店を休んでいる。しかし幸運なことに、ティエウさんの子供たちがこの仕事を受け継ぎ、ティエウさんが守り続けてきた黒胡麻チェーの「遺産」を継承している。

 ティエウさんは実質「引退」しているものの、おそらくホイアン市に住む人々の心の中にはティエウさんの痩せた身体とか細い「伝説の売り声」が当時のまま残っている。

 1月末の冷たい風の中、グエンチュオント通りの路上にあるゴ・ティ・ティさんの黒胡麻チェーの露店は良い香りの煙に包まれていた。人とバイクで賑わう通りの間に素朴に佇むチェー屋は、一見すると旧市街にある他の露店と変わらないように見える。

 鍋の中では、黒胡麻から作られたチェーがぐつぐつと沸いている。黒胡麻チェーは黒胡麻本来の濃厚さと香ばしさ、砂糖の甘み、そして漢方薬のような香りが特徴的だ。ティさんはさっと慣れた手つきでゼラチン状のチェーをお椀にすくい、この黒胡麻チェーの特別な風味について笑顔で話を聞かせてくれた。

 ティさんはティエウさんの3人の子供の次女で、黒胡麻チェーの継承者の1人だ。以前は中学校で教師をしていた。夫はクアンナム省の隣の南中部沿岸地方ダナン市で地政学分野の職員として働いている。

 ティエウさんは黒胡麻チェーの作り方を自分の子供たちだけにしか伝授しておらず、他には誰もその作り方を知らない。黒胡麻チェーの材料を揃えるのは難しくはないが、家族が使っている鍋なくして秘伝の黒胡麻チェーを作ることはできない。

 ティさんが明かした他に代替不可能な2つの材料は、ズイスエン郡で採れる黒胡麻と、ホイアン市にある、かつて南中部沿岸地方で栄えたチャンパ王国時代から存在するというバーレー井戸から汲んでくる水だ。ティエウさんが過去60~70年間にわたり作ってきた黒胡麻チェーは、この井戸水によってより甘みを増している。

 「私たちきょうだいは密かに両親の仕事を盗み見て学び、両親が年老いたら自分たちが仕事を継ごうと考えていました。2015年に両親が休みがちになると、私たち3人は普段の仕事を調整しながら交代でチェーを作り、露店で売るようになりました。生計を立てるためではなく、親孝行のためです。両親に喜んでもらい、後継者がいることで2人に安心してもらいたいんです」とティさんは語る。

 黒胡麻チェーは、ホイアン市がかつて商港都市として栄えた時期に入ってきたものだ。中国由来だが、ティエウさんが店を始めたことによって徐々にホイアン市の名物料理となっていった。

 17世紀から19世紀にかけてのホイアン市は外国との文化交流が盛んで、飲食文化の交流も行われていた。特に、中国、日本、そしていくつかの西洋の国との交流が活発だった。

 当時、ティエウさんは旧市街で飲食店を経営する中国人一家の店で働いていた。ティエウさんが雇い主から学んだメニューの中に黒胡麻チェーがあった。中国人一家がホイアン市を離れる際、ティエウさんはノウハウや技術を受け継ぎ、毎日作り続けることで熱々の黒胡麻チェーで生計が立てられるようになっていった。

 この数十年でホイアン市は大きく変化したが、ティエウさんから子供たちに受け継がれた黒胡麻チェーの鍋の火が消えた日はない。通りに静かに立ち込める湯気は、初代と変わらない香りだ。

 ティさんによると、幼い頃はよくホイアン市のあちこちに黒胡麻チェーを売りに行く父親について行っていたという。簡素な移動販売による稼ぎで父親は3人の子供を育て上げた。その後、ティエウさんが歳を取ってからはグエンチュオント通りの決まった場所に露店を構え、座って販売する今のスタイルになった。

 子供の頃にティエウさんの黒胡麻チェーを食べていた人たちは、今は娘のティさんが売る黒胡麻チェーを食べている。彼らは幼い頃、ティエウさんの温かい黒胡麻チェーを食べるため、ティエウさんの売り声が聞こえてくるのを毎朝わくわくしながら待っていた。大人になった今でもその習慣は変わらず、仕事や買い物に行く前には黒胡麻チェーを食べている。

 黒胡麻チェーの露店は、ホイアン市にしかない名物となっている。カオラウやミークアンのような他の名物料理は全国各地で目にすることができるようになったが、ティエウさんの黒胡麻チェーだけはホイアン市でしか味わうことはできない。珍しくもあり親しみやすくもあるというだけでなく、天秤棒と簡素な椅子に、古き時代の商い文化の美しいイメージが残る場所でもあるのだ。

 2019年にホイアン市人民委員会はティエウさんの家と黒胡麻チェーの露店を文化観光スポットに認定した。黒胡麻チェーは「遺産」としての名物料理であるだけでなく、生計を立てるための露店が観光地に変わったホイアン市旧市街で唯一の場所でもあり、同市を訪れる多くの観光客を惹きつけている。 

[Dan Tri 11:16 02/03/2022]
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