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ベトナムの日常生活の中で、独特な文化を象徴するものを3つ選ぶとしたら、おそらく誰もが思い浮かべるのが、「ノンラー(笠帽子)」、「アオザイ」、「木靴(木製サンダル)」だろう。ノンラーとアオザイは現在でもよく見かけるが、木靴が登場する場面はあまりない。東南部ビンズオン省にある「ソムグオック(木靴)通り」という名の付いた、木靴工房が軒を連ねる通りからも、いつしか木靴を作る音が聞こえなくなってしまうのだろうか。
ビンズオン省は近年、急速に発展している。工業化は同省の姿を日々変化させており、昔の面影は失われつつある。同省は、交通の便の良さで他の地方を圧倒している。中でもトゥーザウモット市を貫くレホンフォン通りは国費で建設されたもので、全長5kmにも及ぶ。この通りの一方の端はビンズオン新都市に、そしてもう一方は昔からある静かな集落に通じており、1本の道の両端には全く違う世界が広がっている。この古い集落に、「ソムグオック通り」と名付けられた小さな通りがある。
現在のトゥーザウモット市フートー地区(旧フーバン村)にあるソムグオック通りの起源をたどると、旧ソンベー省からビンズオン省が分離した1997年当時のトゥーザウモット村の台帳に、その名が記されている。行政資料に名が現れてからは15年足らずだが、この地で木靴が作られるようになったのは100年以上も前のこと。1901年に書かれた考古資料によると、当時この地で木靴作りを営んでいた家は80世帯を超えていたようだ。その後1世紀が過ぎ、親から子、子から孫へと木靴作りは受け継がれていった。
職人は、灼熱の日差しの下、汗びっしょりになって木靴を作る。ある木靴工房で働く若い職人のフンさんは、木靴作りという職業を気に入って、メコンデルタ地方ドンタップ省のタインビン郡から10年前に移住してきた。この地で妻を得て、木靴作りと共に暮らしてきた。フンさんは、木材から様々な形の靴を作っては、ホーチミン市へ売りに行く。フンさんのような若い職人で、シンプルな靴1足につき1000VND(約5円)ほどの収入だという。よく売れた月の月収は約300万VND(約1万5000)になるが、売れなかった月は100万VND(約5000円)ほどにしかならない。