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撮影を終えたテレビクルーは帰国する前に、すべての費用を負担するからタイの病院で治療してはどうかと申し出た。ゴクさんは「この生活にすっかり慣れているし、寝ない間にできることもある。妻を一人残して行く訳にもいかない」と断った。
その後、英国やオーストラリアのテレビクルーも同様の撮影を行った。オーストラリアのクルーは、今後他社の取材を一切断ることを条件に3000万ドン(約12万円)を支払うと提案した。貧しい農家にとっては大金で、その金があれば今のあばら家をれんが作りの家に建て替えることもできる。ゴクさんはしばらくそう考えたが、やはり断ることにした。「人と話すのが好きだし自由でいたい。遠方からわざわざ取材に来た人を、追い返す訳にもいかないでしょう。そんなことをしたら気分が悪いし、彼らがかわいそうだ」とゴクさん。その時のことを思い出した妻のバイさんは、少しだけ残念そうな表情を見せた。
ゴクさんのもとには、その後も国内外のマスコミからの取材が相次いでいる。ゴクさんは、自分のことが報じられた記事や番組を自分では見ずに、隣人らから聞かされて知るだけだ。ゴクさんは最後に、「年齢のせいか薬のせいか分からないが、2か月ほど前からお酒を飲んだ後、30分ほど居眠りすることができるようになった」と自慢するように披露した。38年間も眠れない男にとってはそれだけで十分らしい。