ベトナムニュース総合情報サイトVIETJO [ベトジョー]
 ようこそ ゲスト様 

ハノイの鍛冶屋通り最後の職人

2011/02/01 08:07 JST配信
(C) Dat Viet, H.Q
(C) Dat Viet, H.Q 写真の拡大

 ニューヨークタイムズの記者が、ハノイ市ホアンキエム区ローレン通り(鍛冶屋通り)の最後の職人グエン・フオン・フンさんについて興味深い記事を書いている。

 この通りにまだ活気があり、たくさんの職人がいて農耕具や生活用具を生産していた頃に、フンさんは代々続く鍛冶屋の息子として生まれた。「私が小さかった頃は、小雨の時期になると、通り中で鍛冶をうつ音が聞こえて賑やかだったものだ」フンさんはそう振り返る。

 寂れてしまった通りには車やバイク、物売りの声が溢れる中、今もフンさんが鍛冶をうつ音が古い時代からこだまする音のように鳴り響いている。かつて鍛冶屋が軒を並べた通りは、今ではブティックや装飾品店、百貨店などが並ぶ通りに姿を変えている。多くの鍛冶職人が、より高収入を得られて楽な仕事へと転職した。中には時代遅れの職人では結婚してくれる女性がいないからということで鍛冶を捨てるものもいた。

 「ベトナムにはおそらくまだ職人は残っているだろうが、首都ハノイには少ない。ここでは自分一人になってしまった。てこや斧、錐を打てる最後の職人であることに誇りを持っているよ」フン氏は語る。

 しかし、フンもまたかつての同業者と同様、息子に技術を伝えることはないという。息子は今大学生で、フンさんいわく職人には向いていないのだという。娘も大学生だが、鍛冶のことは全く知らない。

 「自分が死んだら、この通りの名は意味を失ったただの呼び名になってしまうだろう。」ローレン通りの行く末は、ハノイ旧市街の36通りにある多くのその通りで、かつて行われた営みと深い関係のある名を持つ通り、ハンクアット通り、ハンコアイ通り、バットスー通り、ハンノン通りなどと同じ道をたどるのだろうか。

 ハノイ市を研究する学者グエン・ビン・フックさんによると、ローレン通りは19世紀フランス植民地時代に、ホン川にロンビエン橋を建設するために職人たちが集められたことにより形成された。フンさん一家もその頃ここに移り住んだという。

 父親に教えられながら、フンさんは6歳の頃から家族のために鍛冶仕事をしていたという。しかし彼は鍛冶の職に就くことを拒み、35歳で父親に呼び戻されるまでは運転手や工場労働者などの別の仕事をしていたという。

 父親はフンさんにこういった。「この仕事は家に代々受け継がれてきたもので、お前はそれを継承できる唯一の人間だ。私のやることをよく見ていさえすれば、するべきことは全て分かるようになる。」やがてフンさんは自分の生涯に固く結びついたこの職業を愛するようになったのだという。

 仕事場では、彼は毎日通りに小さな机を出し、傍らには鋤がおいてある。道行く人がそこで休憩したり、タバコを一服したりすることもある。88歳のフンさんの父グエン・ヒュー・ティンさんも毎朝自転車で前を通り過ぎる。父はしばしそこで新聞を読んだり、息子の仕事を眺めたりする。

 フンさんは職人としての自分の腕に自信を持っている。彼の手は仕事をする中でほとんど手の感覚を失っているのだという。サンダル履きで火をつけるときには服に穴が開くことなど全く気にしていない様子。金属の温度が上がると炎と煙が出始める。一日が終わる頃には手も顔もすすだらけだ。

 そのときの彼の外見は恐ろしいことになっている。フンさんは妻から「職人になることを知っていたら結婚しなかった」と言われたこともあるという。「だから一日が終わると、手や顔をきれいに洗って服も着替えてから帰宅するんだ。そうすると妻も喜ぶからね」。

 フンさんは服の袖を捲って、記者に向かいこう言った。「ほら、あなたの手よりも白いでしょう?もし言わなければ職人だとわからないだろうね」。

[H.Q, New York Times, .baodatviet.vn, 4:47 PM, 26/11/2010, T].  © Viet-jo.com 2002-2025 All Rights Reserved. 
※VIETJOベトナムニュースは上記の各ソースを参考に記事を編集・制作しています。 免責事項
新着ニュース一覧
第15期第9回国会、例年より早い5月5日開幕 憲法改正を審議 (16:16)

 国会常務委員会は3月31日、第15期(2021年~2026年任期)国会第9回会議の準備について話し合った。  チャン・タイン・マン国会議長は、今国会は憲法の改正や行政区の再編に関する法律の改正など重要な法案を...

ホーチミン:サイゴン川の歩道橋が着工、26年4月末完成予定 (13:52)

 ホーチミン市人民委員会は3月29日、同市を流れるサイゴン川に架かる歩道橋の着工式を開催した。  地場乳業メーカー大手ヌティフード(NutiFood)が、建設資金約1兆VND(約59億2000万円)を援助した。歩道橋は20...

クオン国家主席、訪越のベルギー国王陛下と会見 (6:30)

 ルオン・クオン国家主席は国家主席府で1日午前、ベトナムを公式訪問中のベルギーのフィリップ国王陛下と会見した。フィリップ国王陛下は3月31日から4月4日までの日程でベトナムに滞在している。  両国が197...

ホーチミン、花の少ない13本の「花通り」 (3/30)

 ホーチミン市フーニュアン区のファンシックロン(Phan Xich Long)通りの周辺には、全長1kmにも満たない13本の通りが集まっている。これらの通りは様々な種類の花の名前にちなんで名付けられており、碁盤の目のよ...

はしかの再流行に警戒、ワクチン接種率低下が原因か (6:06)

 保健省によると、今年に入ってから麻疹(はしか)の流行が始まり、これまでに4万2000人以上の感染疑いが報告され、6人の死亡が確認された。  感染者の大半は生後9か月から15歳未満の子供で、その多くがワクチ...

ビンファスト、電動の軽トラックとミニバスをお披露目へ (5:39)

 地場系コングロマリット(複合企業)ビングループ[VIC](Vingroup)傘下の電気自動車(EV)メーカーであるビンファスト(VinFast)は、年内に電動軽トラックと電動ミニバスをお披露目する予

ダナン博物館、ハン川沿いに移転オープン (5:01)

 南中部沿岸地方ダナン市人民委員会は3月28日、バクダン(Bach Dang)通り42番地の施設改修・拡張による「ダナン博物館」整備プロジェクトの落成式を開催した。    投資総額は5040億VND(約29億3000万円)...

JICAとATグループ、ベトナムで自動車整備人財育成事業を開始 (4:20)

 国際協力機構(JICA)中部と株式会社ATグループ(愛知県名古屋市)は3月28日、JICA草の根技術協力事業「ベトナム国自動車整備人財育成プロジェクト(草の根協力支援型)」に係る契約を締結した。  近年、ベトナム...

ENEOS Xplora、ベトナム沖15-2鉱区の新たな生産分与契約締結 (3:05)

 ENEOS Xplora株式会社(東京都千代田区、旧社名:JX石油開発株式会社)は3月25日、同社が100%出資する日本ベトナム石油株式会社(東京都千代田区)を通じて操業主体(オペレーター)を務めるベトナム沖15-2鉱区にお...

3月製造業景況感PMI、4か月ぶり50超え (2:49)

 米国のS&Pグローバル(S&P Global)が先般発表した2025年3月のベトナム・PMI(製造業購買担当者指数)は50.5となり、前月の49.8から+0.7ポイント上昇した。  PMIは、50を判断の分かれ目としてこの水準を上回る...

過去1世紀にベトナムで発生した地震、最大はM6.8 (1日)

 ベトナムは、日本やインドネシアのような環太平洋火山帯に位置する国々と比べて、地震発生のリスクは低いとされている。ただし、ディエンビエン・ムオンライ断層帯やソンマー・トゥアンザオ・ライチャウ断層帯...

FPT傘下企業、ハノイに半導体インキュベーションセンター開設 (1日)

 ベトナムIT最大手FPT情報通信[FPT](FPT Corporation)傘下のFPTソフトウェア(FPT Software)の半導体チップ製造子会社FPTセミコンダクター(FPT Semiconductor)はハノイ市で28日、計画

南北高速鉄道プロジェクト、26年12月着工目指す チン首相 (1日)

 ファム・ミン・チン首相は29日、鉄道分野の国家重点プロジェクト指導委員会の会議を主宰した。首相はこの席で、鉄道産業における技術習得やエコシステム構築の重要性を改めて主張し、特に南北高速鉄道プロジェ...

ベトナム観光協会、韓国事務所を開設 持続的な観光客誘致へ (1日)

 ベトナム観光協会(VITA)は、持続的な韓国人観光客誘致を目的として、4月中に韓国のソウル市に韓国事務所を開設する。  韓国事務所では、韓国の旅行業界に向けてベトナム観光に関する最新情報を提供するほか...

ベトジェットエア、ドンホイ~台北間のチャーター便を就航 (1日)

 格安航空会社(LCC)最大手ベトジェットエア[VJC](Vietjet Air)は31日、北中部地方クアンビン省のドンホイ空港と台湾桃園国際空港(台北)を結ぶ国際チャーター便を就航した。

©VIETJO ベトナムニュース 2002-2025 All Rights Reserved