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身分証明書の手続きで当局に行き、ゴックさんが性別の欄に女性と書いたときにようやく、女性であることを信じてもらえたのだった。それでも、トゥイさんの家族は反対もせず、生活が苦しくても愛してくれる人がいることを喜び、祝福してくれた。ゴックさんの家族もまた同じで、両家の家族はお互いに仲が良く、2人の人生を尊重してくれる。
数年前にトゥイさんの母親が亡くなったことで、使える土地もなくなったため、2人は墓地のそばに住むことにした。2人の境遇を知っている近所の人たちは、古いトタン板や木片、レンガ、毛布などを2人に分けてくれた。それだけでなく、2人のために簡素な小屋も建ててくれた。
「近所の人たちが皆よくしてくれて、本当にありがたいです!私たち2人は毎日墓地に行って、長生きできますようにと祈りながらお線香をたいて、お墓の掃除をしているんです」とゴックさんは話す。
今から2年前、トゥイさんが小さな庭がほしいと思っていることを知ったゴックさんは、草取りをして土地を整備した。今や、小屋の周りの庭にはニワトリだけでなく、野菜にヒョウタン、ヘチマ、パッションフルーツ、トウモロコシ、豆まで育っている。そのおかげで2人は自給自足ができ、生活費も抑えられている。
しかし、67歳のトゥイさんの健康状態は芳しくなく、特に神経疾患で気分の上下が激しい。ゴックさんは、若いころは気分を悪くして家出することもよくあったというが、今はただトゥイさんのそばにいてあげたいのだという。
「もう30年も一緒にいるんですから、嫌になることだってたくさんありますよ。特にけんかしたときはね。でもお互いのことがよくわかっているから、片方がカッとなったら、もう片方は耐えないと。それでこそ、一生一緒にいられるんです」とゴックさん。
毎日午後に、2人は交代で小さな庭の手入れをする。2人は芽吹いた若葉を子供のように大切にしている。だから、子供がいなくても、2人の人生は決して孤独ではない。
「私たちはもう人生の終わりに差し掛かっていますが、あれこれ考えず、神の思し召しのままに生きていきます。ここはお墓の近くですから、死んでもここにいられますし、近所の人たちがお世話をしてくれるでしょう。どちらかが先に死んでしまったら、残されたほうはどんなに悲しくても残りの人生を生きる、と約束しているんです」とゴックさんは微笑んだ。