[特集]
30年連れ添う女性同士の「夫婦」、墓地でともに暮らす
2023/09/03 10:35 JST更新
(C) dantri |
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30年間連れ添ってきた2人は、怒ったり愛したり、離れたりくっついたりを繰り返してきた。そんな今、ファム・ミン・ゴックさん(65歳)の最大の願いは、パートナーであるグエン・ティ・トゥイさん(67歳)の世話ができるように、晩年も健康でいることだという。
南部メコンデルタ地方ロンアン省ドゥックホア郡タンフー村の墓地のそばに建つ小さな小屋に暮らす2人は、ともに生きてきた30年間でお互いを「妻」や「夫」と呼んだことは一度もないが、それでも2人の目にはいつも相手の姿が映っている。
ゴックさんは、幼いころから自分が同年代の他の女の子たちとは違うことに気づいていた。スカートを履いたり落ち着いた遊びをしたりするよりも、髪を短くして男の子たちとサッカーをするほうが好きだった。それでも当時は、祖父母を喜ばせたい一心で、髪を切るにも肩までは長さを残すようにしていた。
ゴックさんが自分の性別をはっきりと認識したのは、同じクラスの女の子を好きになったときだった。祖父母が亡くなると、ゴックさんは髪を切り、ホーチミン市で新たな冒険の旅を始めることにした。
「資源回収(ベーチャイ=ve chai)や建設作業員、住み込みの家政婦…呼ばれれば何でもやりました。自分の力で生きられればそれでよかったんです。だって、私は自分自身のことがわかっているのに、そのせいで家族を苦しめたり、誹謗中傷する人の相手をしたりすべきではありませんから」とゴックさん。
毎日路上で資源回収をしていたゴックさんは、天秤棒を担いで食べ物を売る手伝いをしていたトゥイさんと、たまたま知り合った。何度か冗談を言い合い、2人はすぐに仲良くなった。利便性を考えて2人で一緒に住むことになり、貧しい暮らしや家族と離れて育った幼少期という共通点から、2人の心はお互いに深く結びついていった。
ある日、宝くじを売りに行ったゴックさんが、誰かにぶつかられて腕を骨折してしまった。トゥイさんは慌てふためいて病院にお見舞いに行き、入院費も全額支払った。これがきっかけになり、2人の気持ちは「友達」を越えたのだった。
「私のことが好きだというお金持ちの男性がいたんですが、そのころ姉が夫に殴られて耳から血を流しているのを見てしまって、私は絶対に結婚はしたくないと思ったんです。ゴックは私のことを殴ったりしませんし、あれこれ世話を焼いてくれて、私の短気な性格もうまくあしらってくれました。だからどんどん好きになっていったんです」とトゥイさん。
トゥイさんは食べ物売りの仕事を辞めて、2人でわずかな資金を合わせてホーチミン市1区のグエンズー通りにたばこ屋を開き、夜は見張りのために外で眠った。しかしある夜、ぐっすり寝入っている間に何者かに戸棚をこじ開けられ、商品のたばこもお金もすべて持って行かれてしまった。そして2人の生活はさらに困難に陥った。
それから、2人はゴーバップ区の家に引っ越して、毎日朝から資源回収をし、たばこを売り歩いた。「夜の23時から朝の7時にかけては市場に魚や野菜を集めに行き、良さそうなものは売って、使えるものは料理して…そうやって何とか暮らしていけましたが、貧しいことには変わりありませんでした」とゴックさんは語る。
その後、ホーチミン市では路上での商売が取り締まられるようになり、2人は荷物をまとめてホーチミン市を去り、冒険の旅に終止符を打った。
2人はトゥイさんの故郷であるロンアン省の貧しい田舎で暮らすことにし、親戚の家の裏の土地を少し分けてもらって小屋を建て、生活を始めた。
生計を立てるために、ゴックさんは今でもロンアン省のドゥックホア郡からホーチミン市1区のカウムオイ市場まで40km余りの道のりを自転車で走って、野菜の残りやジャックフルーツの種、ドリアンの種などを集めて帰る。そして、トゥイさんがそれを漬け物にしたり、ゆでたりして、朝に市場で売っている。
「生活は苦しいですが、こっちの暮らしは、都会の喧騒よりもずっと楽しいですよ」とゴックさん。
特に2人にとって何よりも幸せなことは、両家の家族がこの結婚を受け入れてくれたことだ。トゥイさんの故郷で暮らしはじめたころは、誰もがゴックさんのことを男性だと思っていたという。どれだけ説明しても、皆2人が冗談を言っているのだと思っていたそうだ。
身分証明書の手続きで当局に行き、ゴックさんが性別の欄に女性と書いたときにようやく、女性であることを信じてもらえたのだった。それでも、トゥイさんの家族は反対もせず、生活が苦しくても愛してくれる人がいることを喜び、祝福してくれた。ゴックさんの家族もまた同じで、両家の家族はお互いに仲が良く、2人の人生を尊重してくれる。
数年前にトゥイさんの母親が亡くなったことで、使える土地もなくなったため、2人は墓地のそばに住むことにした。2人の境遇を知っている近所の人たちは、古いトタン板や木片、レンガ、毛布などを2人に分けてくれた。それだけでなく、2人のために簡素な小屋も建ててくれた。
「近所の人たちが皆よくしてくれて、本当にありがたいです!私たち2人は毎日墓地に行って、長生きできますようにと祈りながらお線香をたいて、お墓の掃除をしているんです」とゴックさんは話す。
今から2年前、トゥイさんが小さな庭がほしいと思っていることを知ったゴックさんは、草取りをして土地を整備した。今や、小屋の周りの庭にはニワトリだけでなく、野菜にヒョウタン、ヘチマ、パッションフルーツ、トウモロコシ、豆まで育っている。そのおかげで2人は自給自足ができ、生活費も抑えられている。
しかし、67歳のトゥイさんの健康状態は芳しくなく、特に神経疾患で気分の上下が激しい。ゴックさんは、若いころは気分を悪くして家出することもよくあったというが、今はただトゥイさんのそばにいてあげたいのだという。
「もう30年も一緒にいるんですから、嫌になることだってたくさんありますよ。特にけんかしたときはね。でもお互いのことがよくわかっているから、片方がカッとなったら、もう片方は耐えないと。それでこそ、一生一緒にいられるんです」とゴックさん。
毎日午後に、2人は交代で小さな庭の手入れをする。2人は芽吹いた若葉を子供のように大切にしている。だから、子供がいなくても、2人の人生は決して孤独ではない。
「私たちはもう人生の終わりに差し掛かっていますが、あれこれ考えず、神の思し召しのままに生きていきます。ここはお墓の近くですから、死んでもここにいられますし、近所の人たちがお世話をしてくれるでしょう。どちらかが先に死んでしまったら、残されたほうはどんなに悲しくても残りの人生を生きる、と約束しているんです」とゴックさんは微笑んだ。
[Dan Tri 06:30 28/08/2023, A]
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