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それを聞いたリンさんは、もしそうなれば愛するパートナーと永遠に別れなければならないとわかっていたため、うろたえた。リンさんは、自分はバックさんだけを愛していて、他の人と結婚しても幸せにはなれないのにと、少しの恐怖が頭をよぎった。
母親は、子供は産む、でもリンさんとバックさんに育ててほしい、と言った。
その後、リンさんは子供の母親である女性と一緒に暮らすことはなかったが、彼女を定期健診に連れて行くなど、子供の父親としての責任を果たしていた。
そして2021年8月に生まれたコップくんを最初に抱いたのはバックさんだった。バックさんは、出生証明書のためにコップくんとリンさんのDNA検査の手続きの準備もした。コップくんを人生で最初の予防接種に連れて行ったのもバックさんだった。
こうしてリンさんとバックさんはコップくんの親として子育てに奮闘することになる。呼び方も、リンさんは「大きいパパ」、バックさんは「小さいパパ」に変えることにした。
母乳で育てて2週間が経ってから、リンさんとバックさんはコップくんをホーチミン市の自宅に連れて帰り、リンさんの両親と一緒に育て始めた。その間に母親も退院し、ホーチミン市に戻った。ちょうど、新型コロナの影響で社会的隔離措置が講じられている時期だった。
それから1週間後、リンさんはコップくんの母親から新型コロナに感染して重症患者向けの仮設病院に入院することになったというメッセージを受け取った。「彼女は出産したばかりで身体も弱っていて、そばに世話をしてくれる人もおらず、基礎疾患も持っていたんです」とリンさんは涙ながらに語る。
彼女は自分の将来がもう長くないことを予期してか、病院でA4用紙2枚にわたる手紙を書き綴った。「バックさんには、リンさんへの想いと同じように息子を愛し、世話をしてあげてほしいです。リンさんと一緒にあの子を育ててください」。手紙には、バックさんへの感謝の気持ち、自分の代わりにバックさんに「母親」として子供を育ててほしいこと、そして3人で幸せに暮らしてほしいこと……、彼女の心の底からの想いが綴られていた。
この手紙が2人の元に届くということは、彼女が亡くなったことを意味する。2021年9月のある雨の午後、病院からリンさんにこの手紙が手渡された。
彼女はこの手紙をバックさんに託し、いつかコップくんが大きくなったら彼に手渡してほしいと望んでいた。そして、自分の代わりの「母親」の役割は、他の誰でもなくバックさんに任せ、バックさんとリンさんの2人で一緒に人生を過ごしてほしいと願っていた。