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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によりハノイ市で社会的隔離措置が適用された今年4月、視覚障がい者による音楽バンド「ナンモイ(Nang Moi=新しい光)」のメンバーは演奏活動ができなくなり、自宅で電話営業の仕事をしてしのいだ。
8月の暑い昼下がり、ナンモイのメンバーはタイ湖に面したカフェでフェイスブック(Facebook)のライブ配信をしながら、練習に没頭していた。店内が突然停電しても誰も気付かず、ドゥック・ティエンさんの両手は止まることなくキーボードを弾き続け、ホアン・チュンさんは無邪気にドラムを叩き続けた。
メンバー内で最初に停電に気付いたのはタオ・スアンさんだった。ライブ配信の視聴者が「どうして電気が消えたんだろう。きっと停電したんだ」とコメントで知らせたのだ。部屋は徐々に暑くなったが、彼らは気にせず演奏を続けた。
ナンモイのメンバーは生まれつき視覚障がいを持っている。生まれてからずっと暗闇の中で暮らしている彼らにとって、毎日の生活に不便を感じることは何もないという。唯一不便なのは、演奏中に楽譜を見ることができないため、すべてのメロディーを覚えておかなければいけないことだ。しかし、そのおかげで彼らの音楽はよりスムーズに、感情表現豊かなものになっている。
スアンさんは唯一の女性メンバーで、時々手に切り傷や火傷を負うこともあるが、料理が上手だ。ティエンさんとチュンさんと一緒にハノイ市ロンビエン区の一軒家に住み、スアンさんが料理を担当している。
「市場への道順は頭の中に入っています。市場に着いたら、1か所に立っていれば必要な商品は各売り場の人たちが持ってきてくれます。私の得意料理はウズラの卵の揚げ物とミートボール。春巻きも作れますし、家族に送ったりもしますよ」とスアンさんは熱心に語った。
ナンモイは2016年に視覚障がいを持つ教師のチャン・ビン・ミンさんによって設立され、現在は11歳から27歳までの10人のメンバーで構成されている。その中で、スアンさん、ティエンさん、クアン・フイさん、チュンさんが主要メンバーだ。それぞれの生い立ちは異なるが、皆が音楽に情熱を持っている。
スアンさんは明るい笑顔でダンチャイン(dan tranh=日本の筝に似たベトナムの民族楽器)を演奏しながら、メインボーカルを担当している。彼女には視覚障がいのない双子の姉がいるが、スアンさんが自分の運命を恨んだことは一度もない。