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―――監督業とワインは、比べる対象ではないのですね。
別ものです。ワインというよりブドウ畑をやっている、というほうが私の実感に近く、ワインはその産物です。ブドウ畑での仕事は、一人静かに自然と自分とに向き合える時間で、自分のバランスが取れる。公的で常に人に囲まれ、周りに表現し続けるサッカー監督の世界と全く違う。何かを創る、のは同じですが、新しいモノづくりの喜びを発見できて幸せです。できたワインはまた、人々と分かち合うもので、ブドウ畑の仕事は、私にとっての哲学のようなものです。
(C) P.Troussier
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2014年からボルドーのサンテミリオン地区でトルシエ氏が作る赤ワイン。グランクリュの“ソルベニ”(SOL BÉNI 343)は日本でも入手可能。 ソルベニとは、氏が30年前にフランスを出て初めて監督として仕事をした、アフリカのコートジボワールのチーム練習場の地名“祝福された地”。そこから始まった、という思いが込められている。エチケットには、サッカーゴールと氏の戦術代名詞フラット3の布陣“343”の数字が入っている。
―――トルシエさんのように大きな仕事を達成してしまうと、その後の人生では何が生きがいになるのですか。
私は64歳ですが、我ながら、自分の魂は子供のままだと思います。一日一日、別の新しいエネルギーが出てくる。毎日同じ選手と同じサッカーをしていても、繰り返している気がしない。朝起きると「さあ今日は何をしよう!」と子供のように思います。その日は昨日とは違うので、何でもできる気分に、毎朝なります。アイディアが次々に出てきて、試してみるとまた新しい展開が開けて行く。
確かに自分は“サッカー選手になる、W杯に出る”という子供のころからの夢を、運よく実現することが出来ました。しかし私は選手としては大成せず、指導者に転向し、監督となってからはフランスを出てアフリカへ行き、振り返ってみれば、何度も大きな決断をして進んできました。夢をかなえるまでの道に、決められたコースはない。幸運はただ待っていてもこないでしょうが、運命は、こちらからけしかければ、動き出すことがある。それは、夢を持つ誰にでも起こりうる。“人生にチャンスはある”と伝えることが、仕事になりました。
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この国では長い間、人々が夢を持つことは難しいことだった。しかし今日、ベトナムは夢を持って力強く新しい時代に突き進んでいっている。ベトナムがサッカーW杯に出場し、国中が赤い歓喜の色に包まれる日は、近い将来きっとくるだろう。今グラウンドを走る少年たちの何人かは、その時、代表選手になっているかもしれない。しかしその一方、ほとんどの少年たちは、かなわなかった夢と現実とに向き合うことになる。
傷を負っても、それはより強くなるチャンスで、明日の試合は今日の結果とは関係ない。“それぞれの次の試合をあきらめない、一人の強い人であれ”と、トルシエ氏はここで、少年たちに懸命に伝えようとしている。