(C)Nguoi Dua Tin, ボー・ニュー・ヒエンさん 写真の拡大 |
彼は報酬欲しさにこの仕事を引き受けているわけではない。「家族は愛する人を失った悲しみで、遺体を運ぶことまで頭がまわらない。自分も経験があるから、遺族の動揺は痛いほどわかるよ」と彼は言う。
いつの頃からか、この地域で交通事故による死者が出ると、警察が彼に知らせるようになった。数年前に起きたある事故でのこと。大雨の降る中、国道1A号線上でトラックとバイクが衝突してバイクを運転していた男性は即死し、その遺体は見るも無残な状態だった。真夜中に警察から電話を受けたヒエンさんは、雨がっぱを着て現場に駆けつけた。到着するやいなや、懐中電灯で地面を照らしながら、トラックの下に散乱している肉片や髪の毛などを丹念に拾い集め、タンカの上で元の形に組み合わせ、線香を手向けた。朝になって遺族が来るまで、彼は遺体のそばで夜を明かした。
妊婦が亡くなった痛ましい事故では、遺体を拾い集めて帰宅したヒエンさんは、眠れぬ夜を過ごした後、体調を崩して1週間も寝込んでしまった。周囲の人たちは「死者の霊に取り憑かれた」と噂したが、彼は全く意に介さない。「亡くなった不運な人のことを考えたら眠れなくなってしまって、体調を崩しただけさ」。
ヒエンさんが住む地域の国道は交通量が多く、悲惨な交通事故が多発している。被害者の中には遠く離れた省からやってきた人も多いため、遺族が遺体を引き取りにくるのに1~2日かかることもある。その間ヒエンさんは、遺体を納棺し、家族が到着するまで供養する。ときには発見が遅れて、遺体が腐敗していることもあるという。「ウジ虫が体をよじ登ってくることもあるけれど、とにかく不運な人のためだと思って作業に集中する。家に帰ったら着ていたものを全て処分するけどね」と彼は打ち明けた。