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[特集]

遺体の破片を拾い集めて15年、交通事故死の「おくりびと」

2014/12/14 06:01 JST更新

(C)Nguoi Dua Tin, ボー・ニュー・ヒエンさん
(C)Nguoi Dua Tin, ボー・ニュー・ヒエンさん
 南中部沿岸地方クアンナム省タンビン郡にあるハラム町には、「遺体拾い」の異名を持つ男性がいる。ボー・ニュー・ヒエンさん(34歳)は、不慮の事故で亡くなった人たちの遺体を納棺する「おくりびと」となって15年になる。  ヒエンさんは、子沢山の農家に生まれた。貧しいながらも家族仲良く暮らしていたが、10歳のとき母親が病気で入院。それを見舞いに行く途中、父親が交通事故で亡くなってしまった。母親も父の後を追うように他界。末っ子だったヒエンさんは兄弟に面倒を見てもらいながも様々な仕事をして家計を助け、18歳になるとトラック輸送の仕事についた。  「仕事柄、交通事故はしょっちゅう目にした。19歳のとき、夜の国道で車に轢かれたおばあさんの遺体に出くわしてね。形もとどめていないような悲惨な状況で、家族が来るまで誰も近づこうとはしなかったよ」。  ヒエンさん自身もその惨状に怖ろしさを感じていたが、父親が事故で死んだ時のことが頭に浮かぶと、何かに導かれるように自然に足が前に出た。彼は遺体を拾い集め、線香を供えて家族が到着するのを待ったという。遺体に触れるのは怖くないのか尋ねると、「死人も自分と同じ人間だから。死んでしまっても人は五体満足でいたいだろうし、それを手助けしてあげようと思うんだ」と笑った。

 彼は報酬欲しさにこの仕事を引き受けているわけではない。「家族は愛する人を失った悲しみで、遺体を運ぶことまで頭がまわらない。自分も経験があるから、遺族の動揺は痛いほどわかるよ」と彼は言う。  いつの頃からか、この地域で交通事故による死者が出ると、警察が彼に知らせるようになった。数年前に起きたある事故でのこと。大雨の降る中、国道1A号線上でトラックとバイクが衝突してバイクを運転していた男性は即死し、その遺体は見るも無残な状態だった。真夜中に警察から電話を受けたヒエンさんは、雨がっぱを着て現場に駆けつけた。到着するやいなや、懐中電灯で地面を照らしながら、トラックの下に散乱している肉片や髪の毛などを丹念に拾い集め、タンカの上で元の形に組み合わせ、線香を手向けた。朝になって遺族が来るまで、彼は遺体のそばで夜を明かした。  妊婦が亡くなった痛ましい事故では、遺体を拾い集めて帰宅したヒエンさんは、眠れぬ夜を過ごした後、体調を崩して1週間も寝込んでしまった。周囲の人たちは「死者の霊に取り憑かれた」と噂したが、彼は全く意に介さない。「亡くなった不運な人のことを考えたら眠れなくなってしまって、体調を崩しただけさ」。  ヒエンさんが住む地域の国道は交通量が多く、悲惨な交通事故が多発している。被害者の中には遠く離れた省からやってきた人も多いため、遺族が遺体を引き取りにくるのに1~2日かかることもある。その間ヒエンさんは、遺体を納棺し、家族が到着するまで供養する。ときには発見が遅れて、遺体が腐敗していることもあるという。「ウジ虫が体をよじ登ってくることもあるけれど、とにかく不運な人のためだと思って作業に集中する。家に帰ったら着ていたものを全て処分するけどね」と彼は打ち明けた。

 ヒエンさんは遺族からは謝礼を受け取らず、どうしてもという場合は、遺体を覆う筵(むしろ)や線香を買う程度の金額だけ受け取る。警察幹部から多少の心づけが出ることもあるという。交通事故の被害者から金品が盗まれるというケースをよく耳にするが、彼には無縁の話だ。普段の彼は、荷物の運搬やバイクタクシーの運転手をしながら質素な生活をしている。  ただ一つの悩みは、30歳を過ぎても独身のままでいること。ヒエンさんは、色々な女性と付き合ってみたけれどピンとくる人がいないというが、姉のティエンさんは、「お金も土地もない上に、あんな仕事をしていては誰も来てくれない」とあきらめ顔だ。  交通事情がどんどん複雑さを増す現在、大きな事故も増加している。仕事が減るのが何よりだと思いながらも、ヒエンさんは不慮の事故で亡くなってしまった人たちに、最後のぬくもりを届け続けている。 

[Dinh Hien - Nham Than, Nguoi Dua Tin, 2014/11/03 06:31]
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