(C)Lao Dong, 「危険な村」の家並 写真の拡大 |
メコンデルタ地方カマウ省を流れるカマウ川流域で、他の地域の人たちにとっては信じがたい不動産売買が行われている。売買される対象となるはずの「土地」が存在しないのだ。住民は新しい家が欲しければ、2000万~4000万ドン(約9万8000~19万6000円)で岸から遠く離れた「水面」を手に入れて建てる。もちろん法律の裏づけが全くない取引だ。
メコンデルタの海の玄関口となっているカマウ川河口のチャンバントイ県ソンドック町には、全国から漁師が集まる。町に住む漁師が所有する船およそ2300隻に加えて、他の地域から4500もの船が常に出入りしており、流域で最も賑わっている町だ。
レ・バン・トゥさんは30年前、漁の腕に自信があったため、他の村でやっていた畑仕事をやめ、この町に妻と共に移り住んだ。船の上で生活していたが、やがて何人かの子供に恵まれたため、畑を売ってソンドゥックに土地を買った。ところが1997年のこと、この地方に来るはずのない台風が上陸して猛威を振るい、船と家を失ってしまう。生活のため、土地を売って船を買ったが、住む家がない。そこで、余った金で80平方メートルの水面を500万ドンで購入し、家を建てたのだという。以前はその程度で買えた水面も、今では4倍の値段に跳ね上がった。何もないように見える水面も、すべて所有者がいるという。
人々は、水底に杭を打ちつけ、水面から1メートルほどの高さのところに板を敷いて家を建てている。水かさが増す季節になると、床ぎりぎりまで水がくるため、家の中のものを高いところに移動させてしのいでいる。人々は各家の間に渡した危なっかしい踏み板の上を歩いて移動している。河口付近にはこんな水上集落が幾つもあり、どこも辿りつくのに船以外の手段はない。