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結成当時からの団員グエン・ヒエウ・ドゥアさんは1956年に、ある高名なバイオリン奏者が村を訪れた際、指導を受けたという。それまでは、農民たちは主にマンドリン、ギター、月琴などを演奏していた。初めて聴くバイオリンの音色に感動したドゥアさんは、稲や家畜を売って、憧れのバイオリンを手に入れた。今ではブラームスをそらで演奏できるという。ドゥアさんは、村役場に掛け合って、このバイオリン奏者を講師として、村に1年間招きいれた。こうして村には楽団が誕生し、後に多くの演奏者が生まれた。
コアさんは、団員として2年間の経験を積んだ後、軍に入隊し宣伝部隊に配属される。「当時の演奏会の事は、今でもはっきりと覚えています。村の者たちは、軍のさまざまな部隊に配属されて、演奏会で偶然顔を合わせることもありました。今でもテレビ局などが戦時中の演奏を隠れた名演として放送する事がありますが、私はあまり良い事とは思いません。当時の演奏はプロパガンダのために軍が利用したものでした。」
団員たちがバイオリンに時間を費やせる時間は限られている。本業の畑仕事が忙しいためだ。しかし、年を重ねても、どんなに忙しくても、演奏への情熱が冷める事はないという。「平和になった今では楽しみと芸術のために演奏ができます。ただ我々はあくまで農民であるという事を忘れたことはありません」コアさんはそう繰り返した。それでもこの村には確かに音楽が息づいている。耳をすませてみよう。テン村は今もバイオリンの音色で溢れている。