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中部高原地方ザライ省クロンパ郡にある少数民族の村ジライ村に住むナイ・ドロエンは生まれつき両手両足の無い枯葉剤被害の少年だ。彼の住む村には古い言い伝えがある。「未熟児は先祖の眠る土へ還さなければならない。さもないと祟りが起こる」それに従うなら、彼は生きることが許されない。しかし、彼は生き残り、村人達から奇跡であると言われている。
ドロエンの父クボル・ヨアンと母ナイ・フドリルは1972年、南ベトナム解放民族戦線に参加していた。彼らが拠点にしていた地区は米軍の枯葉剤が大量に散布された地区だった。戦後、2人は村に帰還し村の幹部として働いた。1990年には引退し、家で農業を営むようになった。やがてフドリルは1人の赤ん坊を出産する。生まれてきた赤ん坊は頭しかない肉の塊のような姿だった。嘆き悲しむ夫婦のもとを村の長老が訪ね、その子を土へ還すよう諭した。祟りを恐れた夫婦は、そのしきたりに従った。
数年後、再び妊娠したフドリルは畑の上で赤ん坊を産み落とした。生まれてきた赤ん坊は手首から先と両足が無かった。村人達は祟りを恐れ、土へ還すよう口々に言った。ヨアンは手足の無い息子をこのまま生かしておくのは不憫だと思い、しきたりに従おうとした。しかし、いざ土に還そうとするとその赤ん坊はひどく泣きじゃくって抵抗した。いたたまれなくなったヨアンは息子を家へ連れ帰った。またしても子供を失ったと悲観に暮れていたフドリルは、帰ってきた息子を見ると涙を零しながら駆け寄って乳をあげた。すると、赤ん坊は泣き止み穏やかな顔になった。2人は子供をナイ・ドロエンと名付け、育てることを誓った。