(C) Sai Gon Tiep Thi, Huong Lan 写真の拡大 |
東北部バクザン省のテン村は一見ベトナムのどこにでもある普通の農村だが、実は「裸足の音楽家たち」によるバイオリンの村として知られている。村の入り口の門をくぐるとあちこちからバイオリンの音が聞こえてくる。村の弦楽団のリーダーであるグエン・クアン・コアさんによると、数十年前村にバイオリンブームが起き、その後ずっと続いているという。
このブームのきっかけを作ったのは、グエン・ヒュー・ドゥアさんだ。ドゥアさんは音楽家を招いて教えを請いながら練習を重ね、時にはハノイにまで出かけて練習を積んだ。腕をあげると、今度は自分が先生になって他の村人たちにバイオリンを教えた。多いときには生徒の数は約100人に上った。
その当時、村人たちは「バイオリンを弾けなければ、テン村の男とは言えない」と話していたという。ドゥアさんはバイオリンに引かれたきっかけについて、「1950年代のことだが、村に合奏団が来て演奏を聴かせてくれた。その時聴いたバイオリンが素晴らしくて、どうしても習いたくなった」と語った。
ドゥアさんは今、隣村のクインザー村で暮らしているが、元気にバイオリンの指導を続けている。生徒のほとんどは高齢者だ。テン村の中年弦楽団に、高齢弦楽団の仲間ができたわけだ。ドゥアさんは時々、屋外の犬の吠える声や枯れ葉の落ちる音などの雑音の中で、ネズミにかじられた跡のあるバイオリンで演奏している。