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[特集]

裸足の音楽家たちのバイオリン村、今も健在

2011/02/20 08:43 JST更新

(C) Sai Gon Tiep Thi, Huong Lan
(C) Sai Gon Tiep Thi, Huong Lan
 東北部バクザン省のテン村は一見ベトナムのどこにでもある普通の農村だが、実は「裸足の音楽家たち」によるバイオリンの村として知られている。村の入り口の門をくぐるとあちこちからバイオリンの音が聞こえてくる。村の弦楽団のリーダーであるグエン・クアン・コアさんによると、数十年前村にバイオリンブームが起き、その後ずっと続いているという。  このブームのきっかけを作ったのは、グエン・ヒュー・ドゥアさんだ。ドゥアさんは音楽家を招いて教えを請いながら練習を重ね、時にはハノイにまで出かけて練習を積んだ。腕をあげると、今度は自分が先生になって他の村人たちにバイオリンを教えた。多いときには生徒の数は約100人に上った。  その当時、村人たちは「バイオリンを弾けなければ、テン村の男とは言えない」と話していたという。ドゥアさんはバイオリンに引かれたきっかけについて、「1950年代のことだが、村に合奏団が来て演奏を聴かせてくれた。その時聴いたバイオリンが素晴らしくて、どうしても習いたくなった」と語った。  ドゥアさんは今、隣村のクインザー村で暮らしているが、元気にバイオリンの指導を続けている。生徒のほとんどは高齢者だ。テン村の中年弦楽団に、高齢弦楽団の仲間ができたわけだ。ドゥアさんは時々、屋外の犬の吠える声や枯れ葉の落ちる音などの雑音の中で、ネズミにかじられた跡のあるバイオリンで演奏している。

 コアさんはドゥアさんの最初の教え子の一人だ。一緒に学んでいた生徒十数人が戦争に行ったが、幸いにも全員生還し、指に怪我をした者はいなかったという。今、コアさんの中年弦楽団にはメンバーが10人ほどいるが、いずれも正真正銘の農民だ。普段は農作業に精を出し、時間が空いた時にだけ練習する。「農民の指にはたこができているから、町の演奏家のようにいい音は出せない」とコアさん。しかし農民たちの演奏にはなにより暖かい心がこもっている。  ある時、テン村の弦楽団にスウェーデン文化発展基金が目を留め、約7000万ドン(約28万円)を贈ることを決めた。コアさんたちはこの資金を使ってハノイの著名なバイオリン職人レ・ディン・ビエンさんに製作を依頼した。村を訪れたビエンさんは農民たちの活動に感動し、壊れたバイオリンの無料修理をしてくれた。  さて、この村には青少年の弦楽団はないのだろうか。コアさんは少し暗い表情になって、「今の子供たちは電子鍵盤楽器が好きなようだ。うちの子もバイオリンには興味を示さない。将来が心配だ」と話した。夕方になると、あちこちからさまざまな音が聞こえてくる。コアさんのバイオリンの音が一瞬、その騒音の中に消え入りそうに思えた。  

[Sai Gon tiep thi online, 08.02.2011, 09:00 (GMT+7), O]
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