遺体処置の仕事は、誰にでもできるものではない。精神的な「中毒」以外にも、身体的な影響を及ぼしかねない。常に化学物質を扱うため、ラムさんは健康管理に気を遣っている。遺体処置の際はゴーグル、ブーツ、手袋を装着し、専用の衣服に着替える。処置の動作も、化学物質が人にかからないよう慎重に行う。
(C) vnexpress, Le Nga, ハノイ医科大学の遺体安置室 |
(C) vnexpress, Le Nga, ラムさん |
遺体が運び込まれると、ラムさんと他2人で遺体を洗浄し、血管内の血液を全て抜く。遺体がきれいになったら、あらかじめ調合しておいた化学物質を体内に注入し、2日間そのままにしておく。万が一まだ薬品が効いていない部分があれば、再び注入する。その後、解剖に使う時までホルマリンのタンクの中で遺体を保管するのだが、6か月経たなければ使用することができない。
1980年代は、数え切れないほど多くの遺体が解剖用に運ばれてきたという。そして、そのほとんどが引き取り手のない遺体だった。「1日に10体もの遺体の処置を行う日もありました。遺体の数が多過ぎると保管しきれなくなってしまうため、受け入れを断ることもありました」とラムさん。
これまでに処置した遺体の数は、多過ぎて覚えていない。2007年に遺体の提供などについて定めた臓器移植法が施行されてから、大学は献体された遺体しか受け取ることができなくなり、研究のための遺体はわずかになってしまった。彼が最後に遺体処置に関わったのは、2013年にハノイ市のある博士が献体に出された時だ。