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トアンさんによると、はんこ作りは木材を選ぶところから始まる。しなやかさがあって彫りやすい木材を選んだら、1~2日かけて乾燥させる。次は出来上がりを決める最も重要な工程、彫る作業だ。細部まで美しく仕上げられるようになるには2~3年の修行が必要だが、はんこを彫る技術自体は約2か月で習得できる。
通常、トアンさんの店では文字数やデザインにかかわらずはんこ1つにつき7万VND(約430円)となっている。トアンさんは、この仕事が好きでやっているためお金は重要ではなく、はんこを受け取った客が喜んでいる姿を見るだけで幸せな気持ちになるのだという。「長いこと値上げしていないので、外国人を含め、お客さんから苦情がくることもありません」とトアンさん。
時の流れとともに手彫りのはんこ作りは徐々に消えつつあるが、トアンさんは家業を守り、後継者を見つけようと努めている。
「ハノイ市でこの仕事をしている人はそう多くなく、職人たちは皆、うちの身内なんです。無料で手彫り教室を開いたり、寝食をサポートしたりしていますし、生徒が作ったはんこが売れたらその売り上げも給料に含めています。たくさんの若い子が技術を学びたいと来てくれますが、3日で辞めてしまうんです。誰かが私の後を継いで、この仕事を残してくれたらと願っていますが、なかなか難しいですね」とトアンさんは語る。
トアンさんは幼少期に、この仕事で家族が苦労する様子を目の当たりにしていた。それでもその血を受け継いでいるトアンさんは、70歳近くなった今もなお、手彫りのはんこに夢中だ。人生のほとんどを家業の継承に費やしてきたトアンさんは、この仕事を天職だと思っている。