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家族の心配とは裏腹に、ニュットさんは義手の助けを借りて自分でバイクを運転して通学するなど、ホーチミン市でも充実した生活を送っていることを家族に証明した。最近、バンさんはニュットさんに会いに初めてホーチミン市に行った。携帯電話の画面越しにどんなところに住んでいるのかは知っていたが、実際に見ると掃除が行き届いてきれいに整理整頓されていることに驚いたという。
さらに驚いたことは、ニュットさんが時々自炊をし、自分で洗濯もし、ランドリーに行く必要もないということだった。ニュットさんは大学でも優秀な学生で、最近では大学で行われたベトナム韓国技術研究所主催の韓国語コンテストで2位に入賞した。「息子は立派に成長してくれました」と、バンさんは涙ながらに話した。
2年近くをかけて自立した日常生活を送れるようになり、また長い時間をかけて劣等感を乗り越えてきたニュットさんは、同じような境遇にある人たちに自分の経験を共有しようと、短い動画を撮影し、配信するようになった。動画では、歯磨きや皿洗いの仕方、また学校の自動販売機での飲み物の買い方などを紹介している。
南中部高原地方ダクラク省出身のグエン・バン・ブイさん(男性・32歳)もまた、感電して重度の火傷を負い、両手を切断した。数か月間はひどく落ち込んでいたが、たまたまSNSでニュットさんの動画を見つけ、自分からニュットさんに連絡を取って相談するようになった。そして、今では身内の助けを借りずに自分1人で日常生活を送れるようになった。「彼からの励ましや、前向きで自信に満ちた言葉のおかげで、ネガティブで悲観的なことはあまり考えないようになったんです」とブイさん。
ある日の夜遅く、ニュットさんは路上のフーティエウ(南部を代表する豚骨ベースの米製麺)屋台に立ち寄った。質素な身なりの宝くじ売りの老人が、通りがかりにしばらくニュットさんを見つめてからニュットさんに近付き、宝くじを渡した。ニュットさんはホーチミン市でよくこのように見知らぬ人から良くしてもらうことがあるという。
「神様は僕から両手を奪いましたが、代わりにたくさんの新しい道を開いてくれました。人生に躓いても生きてきたからこそ、今も学び続けることができ、ホーチミン市に来てまだまだ人生に愛されていると感じることができ、なんて幸運なんだろうと感じています」とニュットさんは語った。