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南部メコンデルタ地方ドンタップ省出身のグエン・ホアイ・バオさん(男性・37歳)は、10年以上にわたり、1980年代から1990年代のスタイルで店の看板や広告を手描きする仕事を根気強く続けてきた。
8月のある日の午後、バオさんは製作中の看板に仕上げのひと塗りを施した後、「13歳のときから父にこの仕事を習っていたんです」と教えてくれた。
バオさんの父親、グエン・バン・チャウさんは1990年代から故郷のドンタップ省で小さな工房を営んでいた。当時、手描き看板製作の仕事はとても人気があったため、多くの工房が密集して立ち並んでいた。
その後、看板の印刷技術や素材は日に日に多様化し、一方で手描き看板は姿を消していった。父親のチャウさんは絵筆を置かざるを得なかったが、息子のバオさんはこの仕事を諦めたくなかった。
自身の情熱に従い、バオさんは2003年にホーチミン市でグラフィックデザインを学び、それから南部メコンデルタ地方アンザン省ロンスエン市に店を開いた。しかし小さな町で15年間働き続けても儲けはなく、無一文になってしまった。
そんな中、バオさんは幼少期に両親に連れて行ってもらったホーチミン市で目にした手描きの看板が、印象的で心に残ったことを思い出した。バオさんは2017年に離婚した後、2人の幼い子供たちと共にホーチミン市に戻り、かつての古き良きサイゴン(現在のホーチミン市)の記憶を残したいという思いを込めて、「Mot minh lam het(=1人で全部やる)」という名前の手描き看板の店を開いた。
最初の半年は客もおらず、日々の生活費と2人の子供の教育費がバオさんの肩に重くのしかかり、限界を感じることもあったが、それでもこの仕事を辞める気はなかった。それは、この仕事が生計を立てるためだけでなく、古き良き時代の思い出を残すためでもあったからだ。