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客がいない日には、バオさんはインターネットで古い看板が写っている写真を探しては、デザインの見本にするため年代別に保存してコレクションした。ある日、「土砂降りの雨(Ca phe mua rao)」という変わった名前のカフェの看板を手描きで製作してほしい、と初めての客が来た。「それは、この手描き看板の仕事を続けていこうというモチベーションになった、決して忘れることのできない看板なんです」とバオさんは語る。
バオさんによると、昔の看板の素材は木材だけで、木枠に板を取り付けた後に手描きで文字を描いて色を塗るだけだったが、今では鉄枠にトタンやステンレスの板を使っている。またバオさんは、父親の時代から使っている、耐久性が高く10年以上経っても色褪せないというバックトゥエット社(Bach Tuyet)のペンキを愛用している。かつてバオさんの父親がこのペンキを使って描いたいくつもの手描き看板も、今だに残っている。
1枚の看板を作り始める前に、バオさんは文字のサイズ、フォント、そして配色が店のスタイルに合っているか確認するためにPCを使ってデザインする。そしてデザインしたものを顧客に送って確認してもらい、承諾を得てから看板を描き始める。
「通常はすべての作業を私1人でやっているので、1枚の看板を作るのに5日から1週間ほどかかります」とバオさん。この仕事で大変なことは、手描きの作業中はかなりの集中力が必要で、いらいらしていたり落ち込んでいたりしても決して筆を離せないことだという。
レトロなフォントと色合いで描かれるバオさんの手描き看板は、日に日に需要が増えている。1か月前には、米国在住のベトナム人夫妻から1990年以前に描かれた手描き看板の写真が送られてきて、それと全く同じものを製作してほしいと依頼された。