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北中部地方ハティン省カムスエン郡には、クジラを祀る「ドゥックグーオン廟(mieu Duc Ngu Ong)」がある。死んだクジラを見つけると、人々は死骸をこの「鯨寺」に運んで埋葬し、頭部の十字の印または陰陽コインに従って戒名をつける。
カムスエン郡カムニュオン村スアンバック村落の海辺に立地するドゥックグーオン廟は面積2000m2余りで、およそ600年の歴史を有する。敷地内にはクジラの祭壇が3つ設けられ、一角はクジラを埋葬する墓地となっている。「鯨寺」は2007年にハティン省の歴史文化遺跡に認定された。
「鯨寺」の管理委員長であるグエン・フウ・フオンさん(男性・63歳)によると、ここで供養されている「ナムハイニャングートンタン(Nam Hai Nhan Ngu Ton Than=南海人魚尊神)」という戒名のクジラは、大きなクジラだったという。
伝承によれば、あるとき、後黎朝の第5代皇帝レ・タイン・トン(黎聖宗、在位1460~1497年)と側近が龍舟(ドラゴンボート)に乗って航海していると、突然嵐が起こり漂流してしまったが、間もなくクジラが現れて舟を安全に岸まで押してくれたという。
難を逃れた皇帝はクジラに「大王」と名付け、祠を設け、称号を授けた。精神的な拠りどころとなる場ができたことで、漁師は海に出る前に幸運と安全を祈るようになった。こうして、クジラ信仰の風習が生まれた。
カムニュオン村で生まれ育ったフオンさんは、海に出るたびに幾度となく廟に線香を手向けて祈った。また、村の老人たちが死んだクジラを埋葬して墓を作る手順も目にしてきた。遺跡の管理を引き継ぐことになったとき、この上なく光栄なことだと感じ、会議では常に自身の経験を伝え、14人の儀式委員会のメンバーにも伝統を守り、活かすよう呼び掛けた。
毎年、体重20~50kgのクジラ3~5頭の死骸が海岸に打ち上げられる。多い年では10頭ほどになるが、いずれも「鯨寺」で丁重に埋葬される。
規定によると、漁師が死んだクジラを発見した場合、儀式委員長に電話で報告し、写真を撮影して送信する流れとなる。そして儀式の準備をし、海岸に引き上げて埋葬の手続きを行う。第一発見者がはっきりしない場合は、すべての作業を廟の管理委員会が担当する。
フオンさんによると、クジラの死骸を受け入れると、まず儀式委員会が線香を手向けて祈り、廟の敷地内に死骸を埋葬するための土地を手配する儀式を行う。その後、きれいな水を使って死骸を洗い、香りのついた水を吹きかけ、身体全体を覆うように酒を注ぐ。