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以前のバオさんは勉強しかしていなかったが、今は自分と兄の2人の家庭を管理しなければならず、それは決して簡単なことではない。朝は拭き掃除に掃き掃除、皿洗い、植物の水やりに1時間はかかる。兄が病気のときはもっと時間がかかる。「勉強する時間がとれなくて悔やんだこともあります」と、バオさんは正直に話した。
母親が亡くなってからキャパオーバーを感じた約1週間を経て、バオさんは家庭と勉強を両立する方法を学んだ。
勉強のスケジュールは午前7時から午前11時までと午後5時から午後9時、時には午後10時30分まで。バオさんは午前5時に起きて1時間勉強してから朝食を用意し、午前6時30分に兄を起こして一緒に朝食をとる。
授業を聞き逃したり、家事に抜けがあったりしないよう、「授業をしながら拭き掃除」や「授業をしながら料理」といった、両方を同時進行する方法を編み出した。
近所に住む伯父と伯母が毎日バオさんたち兄弟のもとを訪れてサポートしてくれる。バオさんができる限り安心して授業に臨めるよう、皆が交代で昼食を届けてくれる。夕食はバオさんが用意する。バオさんは独学でパスタやピザ、サンドイッチなどを作り、兄の食欲を刺激するため、日ごとにメニューを変える。
母親の手料理が恋しくなった日は、伯父伯母の家に行って酸っぱいスープ(canh chua=カインチュア)や豚の角煮と煮玉子(thit kho tau=ティットコータウ)、煮込み魚(ca kho=カーコー)などを食べさせてもらう。
自分が夕食を用意するようになって3か月が経ち、今では市場に行くのにも食事を用意するのにも自信がついた。
両親が亡くなった当初にバオさんが困ったことは他にもある。兄との関係だ。以前は両親が兄の世話を全てしていた。
入院中、重症患者の治療病棟に移る日、母親は何度も「お兄ちゃんの面倒を見てね」と繰り返した。その瞬間、バオさんは泣かなかったが、母親の目を見て約束した。バオさんは、父親が亡くなる前に何か言葉を発していたとしたら、きっと母親と同じことを言っただろうと思っている。
1人で兄の世話をするようになり、バオさんは思っていたよりも大変ではないことに気付いた。兄は自分で飲んだり食べたりでき、トイレやシャワーも1人でできる。バオさんの授業中は、静かにアニメを見たり絵を描いたりしている。
赤ちゃんのような23歳の兄は母親が亡くなったことをしばらく認識できず、よく「お母さん、入院が長いね。どうして帰ってこないの?」とバオさんに聞いた。