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先の幼馴染のギアさんは教えてくれた。「トアンさんが麻薬中毒症状から抜けたばかりの頃は、私も近所の人々も彼が人生をやり直そうとしていることが信じられませんでした。当時、彼は仕事をとても頑張っていて、健康のために運動を欠かしませんでした。そのような生活を3年ほど続けて、ようやく皆のトアンさんを見る目が変わってきたのです。トアンさんは宝くじに当たった時から仕事をしない遊び人と見なされ、麻薬をやめてからようやく働き始めました。その点でも、麻薬を断つことが彼の人生を変えたのです」。
水の配達の仕事のため、トアンさんは三輪バイクを購入した。通常、配達にかかる費用は1回1万VND(約46.5円)だが、トアンさんは5000VND(約23円)しか受け取らなかった。トアンさんは片腕しかないため他の人と同じようなスピードで仕事をすることができず、もし他の人と同じ金額を受け取ってしまえば雇ってもらえないだろうとの考えからだった。
1998年、トアンさんはビンズオン新聞の「友人募集」コーナーに登録し、人生のパートナーを見つけることができた。サイゴン出身でトアンさんより17歳年下のレ・タイン・トゥイさんと知り合ってから数か月後に結婚し、22年間の結婚生活で一男一女を授かった。
「私の人生は弓矢のようで、後ろに引っ張られるとようやく前に進む力が出ました。それでも自分は幸運だと思っています。麻薬中毒だった10人以上の友人たちは皆死んでしまい、生きているのは私だけですから」とトアンさんは笑いながら言う。
トアンさん一家は収入を補うために昨年から家の前の土地を貸すようになり、現在はテントとテーブル・椅子、食器などの備品をレンタルする仕事で生計を立てている。トアンさんは、別れた妻と子供の生活に影響が出ることを心配し、2人を探すつもりはないという。トアンさんが現在最も大切にしているのは、新しい家族との落ち着いた生活だ。そして中学2年生(日本の中学1年生)になる末娘の世話をするために、自身の健康には気をつけている。
かつて宝くじの賞金で建てられた家は今まで一度も修理されていない。トアンさんはこれまでの人生に後悔はなく、自身を責めることもないといい、それは各々の運命だったのだと考えている。「幸いにも、家を建てるために父がこの土地を購入してくれました。もし宝くじの賞金が全て私の手にあったなら、今この家はないでしょう」とトアンさんは話した。
そして、トアンさんが生まれ育ったフークオン街区第4町内会長のグエン・タイン・ソンさんはこう教えてくれた。「この4年間、トアンさん夫妻は1月の元宵節でバーティエンハウ(Ba Thien Hau)寺を訪れる参拝客に対し、無料でサトウキビジュースを提供しています。トアンさんは裕福ではないかもしれませんが、良心を持った人です」。