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「彼女は嫌がりましたが、帰りませんでした。彼女がどうやって生活しているのか見てみたかったからです」とチーさん。ジエムさんはチーさんの気持ちに気付いていたが、まさか健常者が自分を好きになってくれて、結婚してくれるなど信じようともしなかった。「彼の重荷になるのが怖かったんです」とジエムさんは振り返る。
その後数か月、雨の日も暑い日も、週末になるとチーさんは自分の家から50kmもの道のりをバイクで走って彼女の家を訪ねた。そしてジエムさんの車椅子を押して、村のあちこちを巡った。ジエムさんから「遠くへ遊びに行ったことがない」と聞けば、車を借りて東南部地方バリア・ブンタウ省まで連れて行った。こうして2人の愛情は徐々に大きくなっていった。
付き合い始めてしばらくして、チーさんは母親に彼女を紹介した。写真を見てチーさんの母親は、「この人以外だったら誰と結婚したっていいわ」と真っ向から反対し、息子が説明する前にどこかへ立ち去ってしまった。
週末、バイクでジエムさんの家に向かおうとするチーさんを母親は阻止した。母親を説得することができなかったため、チーさんは家を出てホーチミン市に逃げ、れんが職人として働きながら週末にはジエムさんを訪ねた。
チーさんはジエムさんの母親ときょうだいには応援してもらえたが、父親には「君の両親と話をさせてくれ」と言われた。チーさんは自分の母親に続いて、ジエムさんの父親の反対という壁にぶち当たった。「僕が彼女の家の上の階に上がればお義父さんは下の階に降ります。話しかけても何も言わずに立ち去ってしまいます」とチーさんは語る。
2019年1月、ジエムさんの母親は、近所の人たちにあれこれ言われないようにと、2人に婚姻届を出すよう助言した。ジエムさんの心の中では婚姻届、ましてや結婚式など考えたこともなかった。婚姻届にサインをするためペンを持っても、ジエムさんはまだ自分に夫ができる日がくるなど信じられなかった。