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このひと月半近く、ホーチミン市5区グエンバンクー通りにあるフオン・キー・クアンさんの散髪屋は、若者や宝くじ売り、シクロ運転手など多くの貧困者が集まる場所となっている。店主のクアンさんは、1984年生まれ、南中部沿岸地方ニントゥアン省出身の青年だ。
お店のドアの前で、痩せてひどく色あせた服を着たおよそ60歳の男性が、静かにじっと看板の文字を読んでいる。看板には「宝くじ売り、荷車・シクロ・バイクタクシー運転手、ゴミ収集・清掃を行う人々のための無料散髪屋」と書かれている。
男性が躊躇しながらドアの外に立っている姿を見て、クアンさんは慌てて男性を招き入れた。男性はおろおろしながら尋ねた。「本当に無料で散髪してくれるのかい?」クアンさんはにっこり笑いながら答えた。「はい、本当ですよ。ここで座ってちょっと待っていてください。先に別のお客さんの散髪を終わらせてきますから」。
クアンさんは男性に詳しく話を聞いたのち、「お客さんは荷車の運転手なので刈り上げた方が良いですね。髪が少し汚れているので、頭をきれいに洗ってからカットしましょう」と伝え、約15分後、男性はクアンさんにお礼を告げ、整った頭で帰って行った。
クアンさんがこのお店を開いてから3年近く経ったが、無料散髪屋の看板は約1か月半前に掲げたばかりだ。「このお店の目指す対象者は貧しい人々です。特に宝くじ売り、ゴミ収集・清掃をしている人たち。彼らにとって、きれいな店内で堂々と散髪をすることは贅沢なことなので、彼らと私自身が喜びを感じられるように、手助けをしたいのです」とクアンさん。
「無料散髪屋」の考えは、この10年近くずっと暖めていた。散髪屋を開いてはじめの4か月、お店は小さく、いつも赤字だった。その後、少しずつ客が増え、美容師も増えた。売り上げも上がって収益の心配がなくなった今、ようやく「無料散髪屋」を実現することができたのだという。クアンさん自身も、独立するため20歳前後でホーチミン市へ来た頃に貧しい時期を経験し、自身が成功した暁には他の人を助けたいと考えていた。