(C) vnexpress, カオバンのフォー |
店が軌道に乗り、すべてが順調に思われたが、ベトナム戦争が終結すると景気が一気に悪くなり、閉店せざるを得なくなってしまった。そして、生きるために妻と息子は海外へ脱出する。「もちろん、妻と息子は一緒に行こうと何度も説得してきたが、私はこの地に愛着がある。英語も話せないし、移住したとしても何の仕事もできなかったろうよ」。
1980年になってようやく、以前と同じマックディンチ通りで店の再開に漕ぎ着け、現在に至る。今は6人のスタッフを雇い、高齢になったフォンさんは味のチェックと帳簿付けだけをやっているという。直接調理には手を出さなくなったが、伝統の味を守るためのこだわりは変わらない。今でも店にはガスがなく、薪を焚いて調理しており、これがスープに格段のコクを生み出すのだという。
「牛肉は新鮮なのはもちろん、よそに比べて2倍も高い牛肉を使っているんだ。だからサイゴンっ子だけじゃなく、米国に住んでいるベトナム人も帰国するたびによく立ち寄るよ」。いつまでも変わらない味と職人魂が、客の心を引き付ける。
「6人の子どもたちは今、アメリカとオーストラリアに住んで安定した仕事に就いているが、私は自分の収入だけで何とかなってるよ」とフォンさん。「これまでの人生で今が一番幸せ。人生の最後まで悔いのないよう働きたい」と、この先も子供たちに面倒を見てもらうつもりはないようだ。