(C) Lao Dong, 棺桶から骨を取り出すナムさん 写真の拡大 |
ベトナムでは地域によって、埋葬された遺体を数年後に掘り出して供養する「改葬」の習慣が残っている。その際に欠かせないのが遺体の骨を一つ一つ洗う「洗骨」の作業だ。洗骨の請け負いを生業とする人たちを取材するため、北中部タインホア省ガソン郡のガタン村を訪れた。
改葬人のグエン・タイン・ナムさんが息子2人と一緒に、スコップを持って墓地にやってきた。彼らは紅河デルタ地方ニンビン省の出身で、もう10年以上この仕事をしている。墓の前に来た彼らは、まずランプと松明に火をつけ、これから掘り出す死者に対し親族に代わって線香を手向けた。
地面から1.5mほどまで墓を掘り返したところで、スコップが棺桶に当たった。棺桶にフックをひっかけ、フックについた紐を引っ張りながら、棺桶の下に差し入れたスコップ使って押し上げていく。
棺桶が地面に出されると、そこからが彼らの「特殊任務」の始まりだ。棺桶の蓋を開けると、亡骸に残った肉の耐え難い臭いが立ち込める。ナムさんたちは手袋もマスクもせず、棺桶の中にたまったどろどろの水の底を素手でまさぐる。まだ形を保っている死装束を切り裂き、ぶよぶよになった肉塊の中に潜む骨を取り出していく。ナムさんは、松明の煙が目にしみると、気にする様子もなく素手で目をこすった。有毒な微生物が手に付いているかもしれないというのに。