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[特集]

「死者の骨を洗う」プロ、生きている人に心の安らぎを

2014/08/24 07:54 JST更新

(C) Lao Dong, 棺桶から骨を取り出すナムさん
(C) Lao Dong, 棺桶から骨を取り出すナムさん
 ベトナムでは地域によって、埋葬された遺体を数年後に掘り出して供養する「改葬」の習慣が残っている。その際に欠かせないのが遺体の骨を一つ一つ洗う「洗骨」の作業だ。洗骨の請け負いを生業とする人たちを取材するため、北中部タインホア省ガソン郡のガタン村を訪れた。  改葬人のグエン・タイン・ナムさんが息子2人と一緒に、スコップを持って墓地にやってきた。彼らは紅河デルタ地方ニンビン省の出身で、もう10年以上この仕事をしている。墓の前に来た彼らは、まずランプと松明に火をつけ、これから掘り出す死者に対し親族に代わって線香を手向けた。  地面から1.5mほどまで墓を掘り返したところで、スコップが棺桶に当たった。棺桶にフックをひっかけ、フックについた紐を引っ張りながら、棺桶の下に差し入れたスコップ使って押し上げていく。  棺桶が地面に出されると、そこからが彼らの「特殊任務」の始まりだ。棺桶の蓋を開けると、亡骸に残った肉の耐え難い臭いが立ち込める。ナムさんたちは手袋もマスクもせず、棺桶の中にたまったどろどろの水の底を素手でまさぐる。まだ形を保っている死装束を切り裂き、ぶよぶよになった肉塊の中に潜む骨を取り出していく。ナムさんは、松明の煙が目にしみると、気にする様子もなく素手で目をこすった。有毒な微生物が手に付いているかもしれないというのに。

 彼らは1時間以上かけて脛、腿、腕、肋骨、頭蓋骨を探しあて、ビニールシートの上に並べた。しきたりによると、まず頭蓋骨を赤ワインで丁寧に3回洗い、手ぬぐいで拭く。その他の骨も順番に洗って、足、腕、肋骨、肩甲骨の順に骨壷に納めていく。最後に頭蓋骨を手に取り、祈りを唱えてから一番上に置いた。骨壷は、遺族に引き渡すか、指示された新しい墓に納骨するのだという。  ナムさんは、「死者たちのお陰で金をもらって生活しているが、死者を敬う心がなければできない神聖な仕事。霊魂に関わることだから、決して間違いがあってはならない」と語った。  喪主を務めたことのあるマイ・バン・ズオンさんは、「改葬は神聖なものであると同時に極めて非衛生的。以前は、人が亡くなるたびに親族の誰かが改葬したが、今はプロに頼んでいる」と言う。費用はだいたい50万~60万ドン(約2500~3000円)だという。  改葬の習慣が薄気味悪く非衛生的であるとはわかっていても、行わないことで何か祟りがあるかもしれないと思うとやらないわけにはいかない。洗骨のプロが「有毒な微生物」のリスクを肩代わりしてくれることで、親族は危険にさらされることなく、祟りの心配もなくなる。つまり、洗骨請負人の仕事とは、死者のためというより、生きている人の心に安らぎを与えることだと言えるだろう。 

[Tran Manh Tuan, 2013/07/06 19:48, S]
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