ある週末の朝、ホーチミン市1区のダイアモンドプラザ前に、奇抜な格好をした若者たちが集まっている。赤い髪の者もいれば、青い髪の者もいる。突然現れた彼らは、道行く人の注目を集めていた。彼らは口々にささやき合っている「マイケル・ジャクソンがフンブオンプラザの前にいたよ!」。もちろん本物ではない。若者たちがコスプレでマイケルになりきっていたのだ。
コスプレイヤーの1人、タイン・ビンは自分がコスプレすることについてこう語る。「僕たちはドラゴンボールの漫画が好きだからその登場人物になりきる。ただそれだけ」。コスプレは1990年代生まれのティーンエージャーにとって、今最もホットな遊びと言えるだろう。なんといっても衣装を通じてアニメ上の人物や音楽界のアイコンに変身できるのだから。
コスプレがベトナムに入ってきたのは2004年、初めのころはあまり受け入れられていなかった。しかし今では流行の最先端になっている。「コスプレがずっと前からあったのは知っていたわ。でもなかなか参加できなかった。両親が禁じていたから。子どもが髪を黄色や紫に染めたり、人と違う格好をしたりするなんて受け入れられないのよ」。アイン・グエットはそう打ち明ける。問題は両親だけではない。「コスプレをやるのはとてもお金がかかるの。衣装や化粧品やアクセサリーをそろえないといけないから」
別のコスプレイヤー、ホアン・レー・カーは「衣装を買うお金も問題だけど、お金があってもお気に入りの人物の衣装が売ってないことだってある。そんなときは仕立て屋に行くけど、ヘンな顔をされることが多い。時には自分で縫うこともある」と話す。漫画の見本市やフェスティバルは彼らが待ち望むイベントだ。この時とばかりコスプレを演じきり、自分の衣装を自慢し合う。コスプレ仲間同士で週末や祝日に集まることもある。
コスプレに批判的な意見もある。お金がかかりすぎる、無益だ、テレビゲーム中毒を助長するなど。中にはコスプレ禁止を主張する人もいる。そうはいってもコスプレが若者の心をとらえていることには変わりない。あるコスプレイヤーはこう語る。「コスプレはストレス解消になるんだ。でもなにより重要なのは、コスプレを通して友達が増えたり、自分に自信が持てたり、コミュニケーション力が向上したりすることなんだ」。