ハノイ環境短期大学の学生レー・バン・ソンは「ごみ拾いのソン」として知られている。笑顔の優しい彼は、ごみ埋め立て場で再生ごみ集めを仕事にしている貧困者を支援する「ごみと健康プロジェクト」を進めている。
ハノイ市ソクソン郡のナムソンごみ埋め立て場で会った時、彼はごみの山の中で手慣れた手つきで再生できそうなごみを拾っていた。「ここで働いている人たちに自分自身の健康に関心を持ってもらうには、共同で作業するのが一番。一緒に働く僕のやり方を見たり聞いたりすれば、彼らを説得しやすいんです」。ソンは笑いながらそう言った。彼には自分の考えている支援プロジェクトの実現性を高めるにはどうすればよいか、実践を重ねながら考える必要があった。
「友だちとソクソン郡に遊びにいった時、子どもたちが腐臭のする真っ黒な水たまりで、ビニール袋やプラスチック用品などを洗っているのを見ました。彼らはゴム手袋もマスクもしていませんでした」。この時、彼らのために何かをしなければという思いが彼の中に芽生えたという。しかしこの思いをプロジェクトとして実行に移すまでには、彼と仲間たちのたゆまぬ努力が必要だった。毎日授業が終わるとごみ埋め立て場に行き、そこで働く人たちの話を聞いて彼らが必要としていることや望みを理解しようと努めた。
ソンのグループはこのプロジェクト案を、有意義な社会活動プロジェクトに助成金を支給するコンテストに応募した。プロジェクト案をコンテスト主催者に説明に行く日、ソンはある悲しい話を思い出していた。それはごみを拾っている最中に血の付いた注射針を踏んでしまった青年のことだった。それ以後青年は日に日にやせ細り、家族が病院に連れていったときHIVに感染していたことが分かった。もし防護用具を使っていれば防げたケースだった。彼の他にも、ぜん息や皮膚病にかかっていながら経済的理由で治療できずにいる人たちが大勢いる。
ソンのプロジェクトは見事、他の4つのプロジェクトとともに助成金の支給対象に選ばれた。支給金額は2000米ドル(約18万円)。まずはナムソンごみ埋め立て場で働く人たちに手袋やマスクなどを無償で配布し、それらを身に付けることで健康を守るよう意識を高めることを目標にしている。
「このプロジェクトが終わった後は、ここで働く人たち自身が他の労働者たちにそれを伝えていってくれると思う」とソンは言う。話し終わると彼はまたごみ拾い作業へと戻っていった。プロジェクトは始まったばかりだ。しかし将来、この活動モデルが全国のごみ埋め立て場に広まり、多くの貧しい労働者たちがより安全に働くことのできる日がくるかもしれない。