(C) Kenh14 「冷たいお茶無料」 |
多くの人が行き交うホーチミン市の街角では、時に簡素な中にも温かい人情が感じられる看板を見つけることができる。
ビンタイン区ソービエットゲティン通りの道端に置かれたタンクに「冷たいお茶無料」と書かれた看板が下がっている。通行人が誰でも自由に飲めるよう、周辺住民が提供しているものだ。5人兄弟の長男で家計を助けるために毎日宝くじを売り歩く15歳の少年や、古い自転車に乗りほうきを売って生活費を稼ぐ女性など、日々多くの人が利用している。
10区リータイトー通りにある家の前には飲料水が入ったタンクがあり、誰でも無料で水を飲むことができる。コップ1杯の水は買ってもわずか2000VND(約11円)ほどだが、貧しい労働者にとっては小さな額ではない。古い手車を押しながらやってきた60歳の男性は、水をコップに注ぎながら言う。「サイゴンの人は人情に厚いんだ。こうしてただで飲める水がなかったら、のどが渇いても我慢するしかないね。飲み水を買ったら家族に米を買う金がなくなるからな」
また、1区のグエンティミンカイ通りとコンクイン通りの交差点には、2年ほど前から「バイクの空気入れと修理―障害者は無料」と書かれた看板が置かれている。店主のファムさんによると「毎日10台以上のバイクを修理して、稼ぎは数万VND(1万VND=約56円)程度」だという。店といっても、小さな看板1枚と空気ボンベが路上に置かれているだけだ。ファムさんは「この仕事でたくさん稼ごうとは思っていない。ただ自分よりも困難な状況にいる人たちを助けたいんだ」と話す。こうした店は他にもある。店主のチュオンさんは客のバイクを修理しながら笑って言う。「報われない仕事だよ。1日に稼げるのは1万VND(約56円)ほど。とても家族を養うことはできない。でも、たとえわずかでも、身体が不自由な人や貧しい人たちの助けになれるなら嬉しい。それで十分さ」
フーニュアン区のフインバンバイン通りには、「靴修理―宝くじ売り、バイクタクシー、手車、シクロ、ごみ拾いの人は無料」と書かれた看板がある。この店の主人は28歳のビンさん。ビンさんは「実家はとても貧しく、父を早くに亡くし、年老いた母とまだ学校に通っている兄弟がいる。2年前にわずかな蓄えを元手にこの店を始めたんだ」と話す。毎日たくさんのバイクタクシーやシクロの運転手、宝くじ売りが擦り切れたくつの修理に訪れるが、代金はもらわない。「自分も貧しいが、もっと大変な人たちがいる。できる限り貧しい労働者の人たちを助けたい」ビンさんは仕事の手を休めることなく、笑いながらこう話した。