ベトナム映画「第三夫人と髪飾り」アッシュ・メイフェア監督インタビュー

2019/09/29 06:00 JST配信

―――劇中の官能的な描写や第三夫人というテーマ自体がいい意味でも悪い意味でも好奇の目を寄せてしまい、そちらばかりに集中して観る方もいるかと思うのですが、描写するときに気を付けたことはありますか。

© copyright Mayfair Pictures.
© copyright Mayfair Pictures.

私はそれについては心配していませんでした。誰が何を言っても気にしないということなのですが。というのは、私は「そこに真実がある」と思ったんです。官能性もセクシュアリティも女性であることの一部である、と。

映画は女の子の成長物語であるわけですが、女性の成長の中で感情的な旅路があり、身体が成長していく、変わっていく、そしてまた欲望も目覚めていく、ということは女性であることの一部であり、そういう意味ですごくフェミニスト的な映画ですし、女性であることを祝福しているというふうに思うんですね。官能や欲望について3人の妻たちが話をしたりするというのも、私にとっては真実であり美しいことだと思っているので、それはそのまま心配せずに出しました。

―――今のお話にあったような内容や官能的な描写によって、ベトナムでは4日間のみの上映となってしまったわけですが、その時、監督ご自身はどのようなお気持ちでしたか。また、今のベトナムでは映画の表現などにおいて制限があるという現状について、どのようにお考えでしょうか。

まず、表現の自由から話をしますと、ベトナムではまだ非常に問題があります。歴史的にもアーティストに対する大きな問題になっているわけなのですが、たとえ海外の映画祭などで成功している作品でも、検閲があったりしてベトナム国内で上映できないというケースが結構たくさんあります。それはとても恥ずべきことだと思うんですね。特に才能がある若い人たちがいっぱいいるのに、国からはサポートが得られない。それがある意味、ベトナム映画のインターナショナルなレベルでの地位の向上を妨げているということがあると思います。

才能はあるんだけれども、表現の自由が制限されている。この「第三夫人と髪飾り」に起こったことというのは、(トラン・アン・ユン監督の)「シクロ」にも起こっています。シクロは(1995年の第52回ヴェネツィア国際映画祭で)金獅子賞を受賞したにもかかわらず、ベトナム国内では上映禁止になっていましたので、「よくあること」ではあるんですね。なので、たぶん私の映画も上映禁止になるのではないかな、とある程度予期はしていました。

これは女性のセクシュアリティについて描いていますし、ベトナムの歴史のある意味暗い部分、女性を抑圧してきた部分というのをはっきり描いていますので、これが劇場で公開されたらある人たちの神経をさかなでるだろう、ということは感じていました。それから、父権的な社会というものを揺るがすので、嫌がられるだろうなということは思っていました。

そして、こういうことがあるとはわかってはいたのですが、いろいろなファクターを加味して、それでもベトナムで上映したいと思った一番大きな理由のひとつが、祖父母に見せたかったということなんですね。祖父母に、劇場で自分たちの家族の話を見てほしかった。彼らは海外の映画祭に行くことはできないので、ベトナム国内の劇場で見せたい気持ちが強かったということがあります。

あとは、若いベトナムのフィルムメーカーたちに見せたかったんですね。「自分の言いたいことを出し切っていいのだ」と、「自分で妥協せずに、そして周りを恐れずに、自分なりの最高のレベルで映画を作っていいのだ」と伝えたかった。

ベトナムでは4日で上映禁止になりましたが、それでもこの映画は上映されたわけです。そしてたくさんの人が観て、未だにその話をしている。それが私のメッセージなんです。ベトナム人アーティストたちに、「勇気を持って映画を作り続ければいずれ自由になれるんだよ」というメッセージを出したかったんです。

© copyright Mayfair Pictures.

前へ   1   2   3   4   次へ
[2019年9月6日 ベトジョーニュース/A-TIM’s A]
※VIETJOは上記の各ソースを参考に記事を編集・制作しています。
© Viet-jo.com 2002-2025 All Rights Reserved 免責事項

この記事の関連ニュース

 世界の巨匠たちがその才能を絶賛する1985年生まれのベトナム人女性監督、アッシュ・メイフェア(Ash May...
 ベトナム映画「チャン・クイン(原題:Trang Quynh)」が、10月9日(金)から日本で公開される。配給はイオ...
 ベトナム映画「俺たち替玉ブラザーズ!(原題:Sieu Sao Sieu Ngo)」が、9月11日(金)から
 ベトナム映画「第三夫人と髪飾り(越題:Vo Ba、英題:The Third Wife)」のDVDが、6月10日
 ベトナム映画「第三夫人と髪飾り(越題:Vo Ba、英題:The Third Wife)」が11日、東京都渋
 日本で10月に公開されるベトナム映画「第三夫人と髪飾り(越題:Vo Ba、英題:The Third Wife)
 8月7日から17日にかけてスイスのロカルノで開催されている第72回ロカルノ国際映画祭のプログラム「Loca...
 ベトナム映画「第三夫人と髪飾り(越題:Vo Ba、英題:The Third Wife)」が、10月11日(金)

新着ニュース一覧

 2008年に85歳で死去した故ボー・バン・キエット首相の夫人ファン・ルオン・カム氏が9日早朝に死去した...
 ペトロベトナムグループ(Petrovietnam=PVN)は、9日付けで社名を正式に変更した。  新社名は以下の...
 ホーチミン市1区のサイゴン動植物園は、南部解放・南北統一50周年(1975年4月30日~2025年4月30日)を記...
慣れない海外生活、急病や事故
何かあってからでは遅い!
今すぐ保険加入【保険比較サイト】
 ハノイ市の北西約50kmに位置する北部紅河デルタ地方ビンフック省ビントゥオン郡ビンソン村は、「ヘビ養...
 米国の関税政策に関する東南アジア諸国連合(ASEAN)の特別経済大臣会合が10日午前にオンライン形式で開...
 政府本部で8日午後、全国63省・市における自由貿易協定(FTA)の実施結果を評価する「FTAインデックス202...
 統計総局(GSO)がこのほど発表した「空間別生活費指数(Spatial Cost of Living Index=SCOLI)」2024年版...
 デンマークの玩具メーカー大手レゴ(LEGO)は9日、東南部地方ビンズオン省の第3ベトナム・シンガポール工...
 パソコン・スマートフォンソフトウェアおよびハードウェア製品の企画・開発・販売を手掛けるソースネク...
 ホンダベトナム(HondaVietnam=HVN)はこのほど、「グリーン・イン・モーション(Green in Motion)」をテ...
 バイオ燃料やエンジニアリング、油脂資源開発などの事業を手掛ける株式会社レボインターナショナル(京...
 ハノイ市の世界遺産タンロン城王宮跡(タンロン遺跡)で4月18日(金)から20日(日)まで、「フォーフェステ...
 ドナルド・トランプ米大統領が貿易相手国に対する相互関税について国・地域ごとに設定した上乗せ分を90...
 ドナルド・トランプ米大統領は9日、貿易相手国に対する相互関税について、国・地域ごとに設定した上乗...
 アジア開発銀行(ADB)は、先般発表した最新レポートの中で、2025年のベトナムの国内総生産(GDP)成長率予...
トップページに戻る