事故直後は訪ねてくる友人も多かったが次第に減り、今では時々携帯電話にメッセージが届くくらい。始めの頃は、家に遊びに来るよう友人たちを誘おうとも思っていたが、手土産などいらぬ気を使わせてしまうからと誘うのを止めた。
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夫婦の暮らしにも楽しいひと時がある。ある日はチュンさんにスマートフォンでコメディ映画を見せているとチュンさんが声をあげて笑い、それにつられてチャンさんも一緒に笑う、そんな夜もあるのだ。またある日は、ボレロの音楽をかけて口ずさみながらチュンさんの髪の毛を洗っていると、チュンさんもわずかに動かせる指先でリズムを取る。
チャンさんが「私のこと愛してる?」と尋ねると、たまに大きな声で「コー(Co)!(ベトナム語で「はい」の意味)」と答えたり、頷いたりすることもある。また、古い下宿の部屋にはチャンさんの趣味でもあるバラやマツバボタンの鉢植えが4つあり、暮らしに彩りを添えている。
6月初旬に夫婦はホアンマイ区にある現在の下宿の大家からの誘いで、通常の家賃のわずか3分の1に相当する50万VND(約2360円)で入居することができた。「夫を献身的に介護するチャンさんを見て、何かの手助けができればと思いました」と下宿の大家は語る。
夫婦は9年間に5回にわたり引っ越しを繰り返してきた。チュンさんは床ずれの痛さで夜に叫ぶこともあり、近所迷惑になるからだ。借りることができる下宿はいつも最上階で、夏は日差しが直撃し、冬は冷たい風に晒されてきた。そんな夫婦に今の申し出は思いがけないものだった。
一度はチュンさんを道連れに心中しようと考えたこともあるチャンさんだが、自分の手でチュンさんの人生を終わらせる勇気などなかった。今は、チュンさんがリハビリを受けて家の中で身動きできるようになること、もしくはチュンさんがお腹がすいたり疲れたりした時にそれを伝えるための三語文を話せるようになることが、唯一の夢だと語る。