紅河デルタ地方ティエンルー郡ジチェー村に住むホアン・クオック・ベトさんが掴んだ現在の成功は、視覚障害を抱えながらも決して嘆かず努力を怠らなかった汗と涙の結晶だ。「人間が持つ五感の内、最も失うのが恐ろしいものは?」と聞かれれば、恐らく大半の人が視覚と答えるだろう。「光の無い世界」で暮らすということは、想像するだけでも恐ろしくなるものだ。
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ベトさんにとっての救いは、妻であるレ・ティ・タインさんの存在だろう。彼女の話になると、とたんに表情が緩む。「彼女の強さと明るさがあったから辛いことも乗り越えられたし、今の幸せがあると思っています」そんな彼女も彼と会う前はある意味、光を失った世界の住人だった。タインさんはベトさんと結ばれる以前は未亡人だった。結婚式の3日前、花嫁を迎えにくる途中の事故で彼女は夫を失った。知らせを聞いた彼女はショックで気を失ってしまったという。
その頃、ベトさんのお父さんはタインさんの家の近くで漢方医をしていた。悲嘆に暮れて、生きる活力を失ってしまった彼女を見て、自分の息子と一緒になってはどうかとすすめた。かたや夫を失った若き未亡人、かたや生まれつき視覚障害を持つ男性はこうして運命に引き寄せられるように結びつけられた。「妻は町で噂になる程の美人でした。彼女のような人と結婚できたのは本当に幸運です」ベトさんは破顔一笑、そう語った。