テト(旧正月)を目前に控え賑わうホーチミン市の歩道に、赤いアオザイを身にまとい、テトの楽し気な音楽に合わせて踊る中年男性の姿があった。お菓子を販売する傍らで、満面の笑みで踊り客を呼び込む。しかし、その笑顔の裏には可愛い子供たちに想いを馳せる父親の姿があることを通行人は知る由もない。
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男性は南中部沿岸地方ビンディン省出身、1972年生まれの「チャイン父さん」ことグエン・バン・チャインさん。チャインさんと妻には経済を専攻する大学3年生の長女ヒエウさん、レクイドン専門学校に在籍する長男タイさん、小学5年生の次男トゥンさんの3人の子供がいる。
「あのおじさん道端で踊るなんて頭おかしいんじゃない!なんて言われたりもしますが、私はただ笑って何か言い返すことなんてありませんよ。子供たちを学校に行かせられるお金さえあれば、私は何と言われたって平気です」と誇らしそうに子供の話をするチャインさん。1時間ほど踊り続け、息はすっかり上がっている。
1993年に兵役を終えたチャインさんは生活のために農業から建設業まで、声が掛かればどんな仕事でもした。子供たちを養うために、2005年に単身でホーチミン市へ出稼ぎに行った。
当初は茹で落花生を売っていたが全く売れなかった。茹で落花生は腐りやすく赤字になってしまったので、お菓子や炒りトウモロコシに品を変えて今に至る。アオザイを着て踊ることにした理由をチャインさんはこう語る。「年末年始に帰省した時に、テトはお客さんを喜ばせるために何かできないか考えたんです」。