ハノイ市バックトゥーリエム区に住むグエン・ティ・ビンさん(女性・64歳)は、人々が目をそむけ、誰もやりたがらないような「あること」を仕事にして50年になる。界隈では幼い子供から奇抜な色に髪を染めた若者、白髪の老人までビンさんの名を知らない者はいない。
(C) Dan Tri |
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その「あること」とは、紅河からの遺体引き揚げだ。ビンさんは紅河で網漁を営む家に生まれ、幼いころから洪水の時期になると溺死者の痛ましい遺体を目の当たりにしてきた。父親についていくうちに、行方不明者の捜索や救助、遺体の引き揚げはビンさんにとって日常のことになった。そして、川の深浅や水の流れ、水が渦を巻く場所やその大きさなどが手に取るように分かるようになったという。
ビンさんには決して忘れることのできない場面がある。1971年の洪水が起きる季節、あちらこちらが浸水し、氾濫した河川の水は人々の家屋や財産、命を飲み込んでいった。人々が我先にと薪や水牛や鶏を取り上げている側で、ビンさんは10人近くの遺体を引き揚げた。川には寺院の仏像も流れてきて、ビンさんは仏像を拾い上げ手を合わせて拝みつつ、川の流れを目で追った。
ビンさんに引き揚げられた遺体はガソリンで洗われ、新品の洋服が着せられる。遺体を棺に移す前にビンさんは自治体に連絡し、遺族を探したり、埋葬の手続きをしたりする。