地域の若者たちはビンさんを、水泳の腕前だけでなく類を見ない強靭な心の持ち主として敬服している。ビンさんはこれまでに数百人もの遺体を引き揚げてきた。中には腕や脚を失った遺体もあったが、ビンさんが怯むことはなく、深夜になり帰宅しても直ぐに床に就いて眠ってしまう。
(C) Dan Tri |
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ある時引き揚げた女性の遺体は妊婦だった。髪の毛は抜け落ちて顔も元の面影は残っていなかったが、身に着けていた衣類からとても若い女性であることは分かった。若い女性の残酷な運命に心を痛めたビンさんは、女性を埋葬してから遺族が来るのを一晩中起きて待っていたという。埋葬してから長い年月が経ったが未だ遺族は現れず、ビンさんは慰霊の意を込めて時折少しのお金やゴールドを供えている。
かつてビンさんは両親ときょうだいの家族7人で全長15mの船で水上生活をしており、岸に上がるのは台風のときくらいだった。家族の生活は苦しく、「あの頃は食べ物と言えば葉野菜か茹でたサツマイモでした。一生分のイモを食べましたから、今ではイモを見ても食べたいとは思いませんね」とビンさんは幼少のころを振り返る。