交差点で商売している女性は、叩きつけるような雨の日でも仕事を続ける彼に心底関心しつつ、面白そうにこう言った。「とても律儀な人でね、帰るときにいつも私や交通警察の人たちにきちんと挨拶して帰るんだよ」。ハン川近に立つことの多いダナン市交通警察のファン・クアン・ファップ中佐はこう語る。「彼の仕事に対する姿勢や責任感に、多くの人たちが感服していますよ」。
(C) Tuoi Tre, サイトウ・タカシさん |
サイトウさんは、41年にわたり日本の警察で交通に関する研究に専念してきた。彼の研究により生まれた構想が、東京や名古屋など日本の大都市で実施された。ハノイ市人民警察学院に招聘され、交通について教鞭をとったこともある。
彼は、「ベトナムは交通事故が世界でも最も大きい国の一つ」と言う。統計によると、2013年におけるベトナム全国の交通事故発生件数は3万1300件。うち、死者数は9900人で、日本の2倍以上に上る。「日本では交通事故100件当たり、死亡事故は1件。これに比べてベトナムの交通事故による死亡者の割合は高すぎます。ベトナムでは事故が十分に記録されておらず、統計データの信頼性は低いですが、とにかく死亡事故の削減に取り組む必要があります。最も犠牲になっているのは歩行者です」と彼は言う。
サイトウさんには一人娘と二人の孫がおり、悠々自適の老後を送ることもできたはずなのに、全てを投げ打ってベトナムのために自分の人生の最後を捧げている。彼の残りの人生に孫たちが学べるものを見出してくれれば、と考えているという。
「ベトナム人は日本人にとても似ていて、フレンドリーで情が深く、誠実だと思います。遠くの地なのに、とても親しみを感じます。少しでもベトナムに貢献できることが私の願いです」とサイトウさん。彼の研究姿勢は、ベトナムの交通改善に繋がるだけでなく、多くのベトナム人の命を救うことになるだろう。