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そしてズオンさんは、生まれ故郷のビンズオン省に帰り、友人の靴製造会社で働くことにした。4年後には借金も徐々に減り、今度は経営管理とコーポレートコミュニケーションを学ぶために、バスに乗ってホーチミン市に向かった。
学びの中でズオンさんが興味を持ったのは、企業の社会的責任だ。ズオンさんは家族と別れてからの10年間を振り返って、人生への恩返しになるようなことを何もしてこなかったと気付いた。
「私に何かあるたびに、助けてくれる恩人がいます。だから私も、どんなに小さなことだとしても、誰か他の人の役に立つことを何かしたいと思ったんです」。
2016年、ズオンさんは再び起業し、トゥードゥック市で小さな靴工房を始めた。従業員は十数人だ。オープンして数日後、ズオンさんは工房の前に台を置き、「靴修理無料」という看板を出した。
工房は路地裏にあって目立たず、宣伝もしなかったため、客は通りすがりの数人の宝くじ売りくらいだった。しかし、月日が経つにつれて口コミが広がり、客も増えていった。
ズオンさんは日曜日を中心に、週に8~10足の修理を行っている。客は主に、貧しい労働者や配達員、露天商、障がい者などだ。
ズオンさんの工房から6kmほど離れたところに住んでいるトゥー・フエンさん(女性・40歳)は、近所に暮らす他の工場労働者たちから靴やサンダルを集めて、ズオンさんのところにまとめて持ってくる。通常は仕上がりまでに1週間ほどかかる。
「丈夫に修理してくれますし、縫い目も細かくて、とても良心的です。いつもたくさんの靴を持って行くのと、ときにはバッグの修理もお願いするんですが、一度も断られたことがありません」とフエンさん。
他のところで靴を修理するとなると、1足につき3万~4万VND(約175~234円)はかかる。ズオンさんは「額は大きくありませんが、これが無料になれば、彼らの経済的な負担を少し軽くすることができるでしょう」と話す。
ときどき、会社員の依頼を受けて靴を修理することもある。こうした客いわく、都市部では靴が壊れたら新しい靴に買い替える人が多いため、靴を修理してくれるところが少ないのだという。
「私は、金持ちも貧乏人も区別しません。ただ人を助けたい、それだけなんです」と、ズオンさんは語った。