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ハノイ市ホアンキエム区のハンボン(Hang Bong)通りとフーゾアン(Phu Doan)通りの交差点に、ハンボン集合住宅がある。グエン・ゴック・アインさん(女性・55歳)は、自分も旧市街の住人になって人生を変えたいという希望を抱き、2011年にここへ移り住んだ。しかしこの13年間、アインさんは自分の家に「埋もれる」ことを心配しない日はなかった。
ある日のこと、アインさんはリビングにある木製の椅子に、身体を丸めて横たわっていた。アインさんの部屋にはベッドがない。正確には、まともなベッドを置くスペースがない。ハンボン集合住宅の最上階の3階にあるこの部屋は、広さがわずか16m2だが、一応「土地使用権証明書付き」で、かつては土地の評価額が1m2あたり1億2000万VND(約74万円)に上った時期もあるという。
「この評価額で言うならば、私はホアンキエム湖のすぐそばの、旧市街の中心部にある『億ション』に住んでいる、ということになります。ここに引っ越してきたばかりのころもそう思っていましたし、遠く離れた郊外での日々とは違う、新しい生活に期待していました。でも、ほんの数か月でわかったんです。誰もこんなところに足を踏み入れたくないって」とアインさん。
旧市街の広さ16m2の部屋で暮らす
アインさんが外出から戻り、自分の部屋までたどり着くには、幅1mもない狭い廊下を通らなければならない。数年前、自動で点灯するライトが設置され、この廊下も明るくなった。ただし、明るくなったとは言え、前方が少しよく見えるという程度だ。
2回左折し、1回右折して、短い階段を上り、今度は長い階段を上って、最後にもう1回右折すると、ようやくアインさんの部屋に着く。
室内のものが玄関のドアの外にはみ出しているのも慣れっこで、玄関からわずか1歩でリビングにある椅子に座ることもできる。アインさんは広さ16mの室内にロフトを設け、1階はリビングと台所、そして母子2人の寝室を兼ねている。2階は雨が降るたびに雨漏りするため人がいることはできず、物置になっている。
3階には前の住人が残していった水場と、容量1000Lの水のタンクがある。アインさん自身も、この巨大なタンクをどうやってここまで運んだのかわからないという。以前、3階にはアインさんの両親が住んでいたが、両親は別のところに引っ越したため、今はここも物置になっている。
「2019年に両親が出て行って以来、私と息子はこの家をただの寝る場所としか思っていません。台所はカビだらけだし、ロフトの2つの階には丸1週間上らないこともあります」とアインさんは語る。