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ティンさんによると、ここではどの店も昆虫をビニール袋に入れて販売しており、1袋当たりの値段は2000~5000VND(約12.3~30.9円)だという。値段が安いため、買いに来る客は特に値切ることもせず、種類を確認するとすぐに支払って去って行く。
日常的に昆虫を触っているため、黒ずんで臭いのする手をした60歳近いランさん(女性)は、ここで最も長きにわたり昆虫を売っている商人の1人だ。ランさんによると、1975年以前はこの場所では鳥や闘鶏用の鶏を売っていたという。その後、買った鳥を飼う人向けに餌となる昆虫を売る人が現れ、その売れ行きを見た人がさらに昆虫を飼育して持ち込んで売るようになり、現在の昆虫市場が形成された。
この市場で10年ほど商売をしているホックモン郡在住のタムさん(男性)は、這いまわる昆虫の群れに真っすぐ手を突っ込み、記者たちが身震いする様子を見て笑った。タムさんは、初めはこの仕事にうんざりしていたが、商売を続けていくうちに慣れてしまったと話す。今ではトカゲ、ヘビ、ムカデ、幼虫など何でも素手で簡単に捕まえることができるという。
「以前は郊外に無数のイナゴやバッタがいて、大した値段にはなりませんでした。数時間で2kg捕まえても、その『戦利品』の値段はたったの数万VND(1万VND=約62円)でしたから。ところが今では、1袋に数匹しか入っていないイナゴが、種類によっては5000~7000VND(約30.9~43.2円)もするんですよ。私は、人が育てた昆虫を卸売りする業者から買って、それを売って利益を得ています」とタムさんは語る。
この場所に昆虫市場ができてからというもの、鳥を飼う人たちが毎朝各地からここに集まり、鳥の売買をしたり、世間話をしたりしている。鳥のさえずりやコオロギの鳴き声は、多くの人にとっていつか田舎で聞いた馴染みのある音だ。
だからこそ、このユニークな市場は商売の場所であると同時に、ホーチミン市に住む人々にとって、都会の喧騒の中ではなかなか見つけることのできない、のどかな田舎の一角のような場所でもあるのだ。