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農家が建てた「庭付き一戸建て」
「うちは、あと10日くらいかかるかしら」
「なんだ、もう終わったと思ってた。テトには引っ越してたよね?」
「知り合いの大工に頼んでるから、ちょっと遅いの。でも、まぁ、もうすぐよ」
ヒエンさん(45歳)が、ロックアン・ビンソン再定住区の新居でクーさんと笑う。彼女は家の掃除をしながら私たちを出迎えつつ、気を抜かないで仕事をするよう大工に注意する。
スオイチャウ村で暮らして20年あまりのヒエンさんは、夫とのあいだに2人の娘がいる。かつては土地を借りてキャッサバやカシューナッツを植えていたが、期待したような儲けは出なかった。
「頑張っても、頑張っても、食べていくだけで精一杯。節約して、節約して何とか子供たちの学費を捻出して。家なんて間に合わせの葉葺だったし」と、ヒエンさんはスオイチャウ村で生活していた頃を思い出す。
そんなある日飛び込んできた、ここに空港が建設されるらしいというニュース。彼女にはそれが、喜ぶべきものなのか、心配するべきものなのかわからなかったが、じきに自治体がやってきて土地の測量が行われ、立ち退き補償計画が知らされた。農地4000m2で受け取ることができた補償金は20億VND(約1140万円)近く。これに再定住区の1区画分の抽選券が付くということだったから、家族は喜んだ。
抽選で引き当てたのは125m2の区画、農地を宅地に切り替えるための税金を少し払い、2021年なかばから家の建設をはじめ、2022年のテトが迫った頃、家はまだ60%の仕上がりだったが、一家は新居に引っ越した。
「建設費は20億VNDちょっと。頑張ったのよ。大工は親戚に頼んでできるだけ費用を抑えて。補償金は家の建設に全部使っちゃったけど、なかなかいいでしょ。気に入ってるわ」とヒエンさんは言う。
実はヒエンさんも夫もこの先の収入の当てがないのだが、娘が2人ともちょうど大学を卒業したところで、負担はずいぶん軽くなったという。「貯金もないので何か仕事を探しますよ。しばらく家にいて、勤めに出るといろいろ大変だとも聞くから、心の準備はしておきます」とヒエンさん。
ヒエンさんより好条件だったのはチュンさん(62歳)である。彼は約2万m2の農地の補償金として100億VND(約5700万円)あまりを受け取ることができ、さらに再定住区の区画300m2を引き当てた。彼が20億VNDあまりをかけて建設した家は2021年末に完成した。
立派な新居に暮らし、相当の貯金もでき、これが現実なのか信じられないことも多いという。「空港建設がなければ、この周辺の土地も今みたいに高くはないでしょうし、私たちは今も貧しい農家のままだったでしょう」と話すチュンさん夫妻は毎朝、コメや野菜を軒先に並べて行き交う人々に販売している。また何の経験もなかったが、コーヒーメーカーを購入し、飲み物販売などにも精を出している。