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ある時、酒に酔ったキエンさんはティエンさんの部屋のドアを叩き、自分の気持ちを告白した。ティエンさんは「何を言っているの。弟みたいな年齢で、何が愛よ」と叱りつけたが、冷たくされてもキエンさんは諦めなかった。
翌日、酔いが覚めたキエンさんは、再びティエンさんに気持ちを伝えた。そして、父親は遠くに出稼ぎに行ってしまい、小さい頃は父方の祖母に育てられたが、その祖母も今は亡くなってしまった、という自身の生い立ちについて語った。キエンさんはティエンさんと出会い、交流を続けるうちに、自分には家庭が必要だと気付いたのだった。
8年前のティエンさんの誕生日、キエンさんは大きなケーキに添えて結婚指輪を用意し、ひざまずいてティエンさんにプロポーズをした。キエンさんの誠実さに触れ、ティエンさんは頷いて同意した。2日後、2人は婚姻届を提出し、正式に一緒に暮らすようになった。
結婚生活が始まって5日目、雨風の激しかったある夜に、ティエンさんは前夫のベー・ハイさんが交通事故に遭い、外傷性脳損傷により救急搬送され、脳外科手術が必要だという知らせを受けた。ベー・ハイさんはもともと孤児で、離婚後もティエンさんの両親が残した古い家に1人で暮らしていたため、手術の同意書に署名する身内が誰もおらず、病院がティエンさんに連絡したのだ。
悪い知らせを受け、ティエンさんは急いで荷物をまとめ、故郷に帰る支度をした。そして、離婚してから前夫には何の感情もないが、不憫な状況で彼を放っておくことはできないとキエンさんに説明した。さらに、この複雑な三角関係に巻き込まれたくなくて離婚を希望するのであれば構わない、と提案したが、キエンさんは「あなたがどこに行こうと、ついて行く」と断言した。
病院で、夫婦は交代でベー・ハイさんの世話をした。ティエンさんには心臓の病気があり疲れやすかったため、入浴や食事などの介助はキエンさんが担当した。ある時、医者にベー・ハイさんとの関係を聞かれたキエンさんは、「実兄です」と答えた。こうしてキエンさんはこの8年間、ベー・ハイさんの入浴や食事の介助を受け持ってきた。
妻と共にアンザン省で介護をしているため、キエンさんは遠方へ出稼ぎに行くことができず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が広がる前は、建設現場の作業員や魚釣り、飲み物売りなどの仕事をしていた。しかし、新型コロナの影響でこの数か月はそうした仕事も減ってしまったため、野菜の行商の仕事に切り替えた。
妻のティエンさんは、以前は宝くじを売って夫を支えていたが、現在は出産を控えているため家で過ごし、ティエンさんが翌日売りに行く野菜の選別を手伝っている。