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今年72歳になるグエン・ティ・ホン・サムさんは、客が持参したバッテリーを点検すると、「端子の3つは癒着していて、2つは錆びているね。交換したほうがいいよ」と的確に指摘し、客はゆっくりと頷いた。
11月下旬のある朝、ハノイ市ロンビエン区ゴックラム(Ngoc Lam)通り46番地にあるサムさんの店を、常連客のチャン・スアン・フオンさん(男性・36歳)が訪れた。「サムさんに車を診てもらうようになって5年が経ちます。彼女が壊れているといえば本当に壊れていて、修理もできないんです。彼女のすごいところは、機械で検査しなくても目で見ただけで車やバッテリーの修理箇所がわかることです」とフオンさんは語る。
サムさんは店内に積み上げられたバッテリーの中から1つを選び、フオンさんに取り付け方を説明した。フオンさんはサムさんの説明を熱心に聞いた。
今から50年以上も前のこと、ハノイ市出身のサムさんは自動車について4年間学ぶ機会を得た。卒業後は北部紅河デルタ地方タイビン省に配属され、自動車部門で長を務めた。10人のメンバーのうち女性は2人のみで、タイビン省の物流企業の自動車や長距離バスなどの修理とメンテナンスを専門に手掛けていた。
当時、ハノイ市出身の女性がなぜわざわざタイビン省まで来て、1日中油にまみれて自動車修理の仕事をするのかと同僚にたずねられると、サムさんは「お国が命じたから」と答えるだけだった。
5年後、サムさんはハノイ市勤務を命じられた。「毎日車の下に潜り込み、豚のように重い部品を両足で支えながら、手で修理をしていました」とサムさんは回想する。仕事の一方で、研究と書き物を仕事とする男性と結婚して3人の子供に恵まれた。しかし、45歳の時に専門分野とは異なる業務を任された。オイルやエンジンに慣れ親しんでいたサムさんにとって、のんびりとした新しい環境は合わず、早期退職を申し出た。
その後、サムさんは自動車部品を購入し、家の前に「電気製品修理します」と書いた看板を掲げて、若い時代を捧げた修理の仕事を再開した。近所の人々は、サムさんが修理の店を開いたと知れば笑い、「どうして女性に合った仕事を探さないの。修理の仕事は汚くてきつい仕事だよ」とサムさんに忠告した。しかしサムさんは、「私には学がないし、誰もがきれいなままでいたいとデスクワークを望んだら、ごみ掃除をする人がいなくなってしまうでしょう?」と返した。